老いと幸福

給料(ペイ)か、同僚(ピアーズ)か、それとも誇り(プライド)なのか

 

年配の労働者が幸せを見つけるには?

 2012年3月31日 雑誌版

 同僚より給料が少ないという意識は、幸福感に2つの影響をおよぼしている。よく知られているものはネガティヴな影響である。すなわち、給料袋が昔より薄くなると自尊心が傷つく。あまり知られていないものに、「トンネル効果」と呼ばれている影響がある。同僚が高い給料をもらっていると、自分も同じように裕福になるチャンスが増える気がしてくる。とりわけ経済成長が高く、格差が著しく、変わりやすい状況だとそうなる。

セント・アンドリュース大学のフェリックス・フィッツロイによって共同執筆された論文が、今週、ケンブリッジのロイヤル・エコノミック・ソサイエティで発表された。その論文はドイツの世帯調査のデータを引用して、この2つの影響を分類している。その調査によれば、デンマークの個々の企業においても、共産主義後の東ヨーロッパのように絶えず変化しているような経済においても、他人の収入は少なからずはっきりと、満足感全般に影響をあたえる。しかしフィッツロイのグループの理論では、高齢の労働者であろうと、自身の生涯賃金をおおよそ知っていれば、トンネル効果がずっと小さくても楽しむことになる。

データによって、この理論は実証される。同僚より賃金が少ないという幸せに対するネガティヴな影響は、45歳以下の労働者ではさほどでない。実際西ドイツでは、同僚の収入が増えることに、若い労働者は幸福を感じる。(自分たちの収入が増える場合よりも幸せになる)。45歳以上の、キャリアを確立した人々だけが、他人の成功に不幸を感じるのだ。

20歳上の65歳の人々が退職で受ける苦痛は、さらに興味深い。退職という幸せから得るものは輝かしいものではなく、ただの失業なのである。失業は幸せを損なうものと思われている。なぜなら働かないでいると、社会から期待されないということになるからだ。このアイデンディティの喪失は、失業手当によっても、余暇時間の増加によっても償うことができない。ベルリン自由大学クレメンス・ヘッチコが代表をつとめるグループも、先述したドイツの世帯調査に関するデータを使って、ロイヤル・エコノミック・ソサイエティで論文を発表した。それによれば、長期失業者のような気持ちが強くなるのは、仕事を探さなくなって退職した状態になり、社会的なノルマを達成しなくなるときだという。

仕事をしていた人が退職をした場合、幸せになるとはいえないのだ。おそらくそれまでの生活が社会から期待されることで成り立っているからである。仕事から早く退職するということは、実に、イヤな副作用がある。チューリッヒ大学のアンドレア・カーンによって共同執筆された論文では、オーストリアの労働保険規則が変わり、ある地域のブルーワーカーだけが早く退職するようになったときの事例が報告されている。1年早く退職する男性は、67歳まで生きる確立が13パーセント減少する。この高い死亡率の3分の1は、仕事がなくなることにより退職においこまれた人々に集中し、喫煙とアルコール摂取により引き起こされた。もし読者がなんらかの仕事についているならば、たとえそれが低賃金のものであっても、その仕事にしがみつかなければいけないのだ。

              The Economist  2012年3月31日から4月6日号

 

 ・この記事を読んだ読者からの感想 その1  The Economist HPより

 割り切りすぎた記事だと思います。人生はもっと複雑で、こうしたカテゴリーに簡単に図式化できるものではありません。社会の期待にこだわらないで生きようと選択した人にとってお金とはより良い人生をすごすためのものであり、同僚にひっぱられている人とでは金銭感覚が違います。お金の見返りを考えないで生きるなら、いろいろなことに関心を持って、もっと創造的に、もっと時間をかけて真実と間違いを見極めることができるでしょう。たとえ他のひとが大切にしているものの大半を失うとしても、こうした生き方を夫とともに歩む。それこそが私には価値があることなのです。

この記事を読んだ読者からの感想 その2 The Economist HPより

歳を重ねることの利点はーーーいまいましいことに唯一の利点だがーーー天の恵みとして仕事を見るようになることだ。わたしはある法人のCEOだったので、すべての人の夢はわかる。すなわち50歳でお金をたくさん手にして退職すること。つまらないことだ。

  来る日も、来る日も大工仕事をして退屈な時間を過ごして、心が麻痺してしまった夏のことを思い出す。私は大工仕事で木材をたくさんカットした。ボランティア的なもので、好きな仕事だったのだが、むなしい時が残った。やはり私も生活のリズムが必要な哀れな魂の持ち主なのだ。―――「明日の九時に私は何をしなければいけないのだろう」と。

 ここにきて運命の女神の気まぐれで教える仕事についた。教室で1年を過ごすことになり、2011年度も終わろうとしている。

  私は今70歳にさしかかり、退職について言われることもあるが(妻のせりふときたら「夫との時間を倍にしたい、お金は半分でいいから」なので)、でも、ためらう気持ちがある。毎週日曜日の午後になると、私はいつもかごの中の動物のように家の中を行ったり来たりして、1日に8時間、人々とチャレンジする生活に戻ろうとする。

  同僚のなかでも、私がこの仕事に一番適している。傲慢に聞こえるだろうが、私は経済学を教え、実務経験もゆたかだ。かたわらで教えている若者のように伸びていくことはないが、心配をかけることはない。若者を愛しているし、彼らを楽しませるだけの飴は持ちあわせている。

  本当のところ、私の歳で退職することに不安もある。私の知り合いの男性達たちは皆、だんだん気難しくなったり、強迫観念に取り付かれたように(楽しむでもなく)旅行をしたり、静かな自暴自棄におちいったりしている。彼らの奥さんたちは家庭のそとでつきあいがあり、数十年間にわたって社会生活に適応してきている。一方、偏屈な爺さんである彼らときたら、朝読んだ新聞記事に怒って逆上するくらいしか仕事がない。

  この年齢で働くことは、私にとって幸せを高め、自己評価を高めることである。もし私より働く人がいるにしても(確かにいるが)、それはお金の必要があってのことーーーでも、私は違う。

 今年の秋、私は教職に戻る。いつまでも退屈な日々を続けるということは、いわば大砲の銃身を見下ろしたまま、鉄のかたまりが魂に飛んでくるのを待つようなものだから。

 失業状態にある人々に対しては、私は同情を感じる。この記事の記者は非常に正確だ。失業に関する調査は、偏見のないものであっても(ほとんどは偏見にみちているが)、世界で役割を果たしているという感覚に代わるものではないからだ。

  本誌の若い読者は頭を振って、私の記事にこう言うだろう。「なんて忌々しい爺だ。こっちはチャンスをつかんだばかりなのに!」しかし、60歳になり斜陽の下り坂にさしかかる頃には、私がその歳で見つけたことを理解するだろう。

 すなわち仕事とは、人生にあたえられた天の恵みなのだと。

 

・この記事を読んだ読者からの感想 その3 The Economist HPより 

  若い世代の多い発展途上国では、退職は58歳の若さでしなければなりません。退職時に考えられる唯一の選択は自分で仕事を始めることですが、これは忙しさを保つためでもなければ、幸福を保つためでもなく、心を和ませるためでもありません。ただ経済を支えるためのものです。他の選択肢がなくてよかったのかもと思うこともあります。

 

・この記事を読んだ読者からの感想 その4 The Economist HPより 

 この記事には健康保険についての言及がありません。私の国アメリカでは、雇用者が基盤となっている保険システムと天にまで届きそうなくらい高い医療費のせいで、失業することや安い給料で雇用されることは死の宣告になるのです。

もう生活していけないのに、周囲から金銭的なことを期待されて生活するのは厳しいです。

 引用元: Age and happiness: Pay, peers and pride | The Economist

 (記事・感想ともLady DADA訳・River監修)

 

Lady DADAのつぶやき・・・内閣府の第6回高齢者の生活と意識に関する調査で、各国高齢者の就労理由を見てみると、ドイツ・フランスでは「仕事そのものが面白いから」が上位に、アメリカ、韓国、日本では「収入が欲しいから」が上位にあがっています。ちなみに仕事が面白いからという高齢者の割合ですが、日本はフランス・ドイツの半分にすぎませんでした。

 ラテン語で労働という言葉travailはもともと人間を串刺しにする拷問の道具を意味するものであり、労働とは作業をやりとげるときに感じる苦しみのことでした。これとは対照的に、もう一つのラテン語の言葉labor(労苦)は職人や芸術家の仕事を意味しています。キリスト教では原罪の罰として与えられた労働が、肯定的な価値を持つようになったのはルネッサンス期以降だそうです。

 どうすれば労働が苦しみtravailから、肯定的なlaborに変わるのでしょうか?労働の本質とは、”Less work, more money!”(より少なく働いて、より多くの収入を!)であると思いたいLady DADAにとっては辛い時代です。(Lady DADA筆)

 

 

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