アーサー・モリスン「ロンドン・タウンへ」15章149回

 人々は、この頃には小さな集団となっていたが、いらだたしい橋のことを忘れ、新たな展開に気をとられていた。「そのレディに二ペンスをあげろよ」柱に腰かけた少年が、太く、低い声で、うなり声をあげた。「半パイントのビールがあれば、その女は楽になるのに」

 アイザックおじさんは必死になって、周囲をみわたした。だが、憐憫の情をかけてくれそうな者は見当らなかった。ドック工に職工、少年たち、すべての者が沸きたって、その光景を思いのままに眺めようとしていた。つきまとう阿婆擦れ女は一歩近づくと、ふたたび大声でわめいた。「二ペンスでいいんだ、貸しておくれ」

 「だめだ」アイザックおじさんは大声をあげ、ついには怒鳴りはじめていた。「だめだ、やるものか。あっちへ行け。あっちへ行くんだ。なんてけがらわしい女だ」

「だめなのかい?」

「ああ、だめだ、ぜったいに。自分のことを恥じるがいい。おまえは、おまえは、懊悩のもとだ、あばずれ女め」

「自分のことは紳士だとでも言っておきながら」彼女は言うと、人々のほうに視線をむけた。「自分のことは紳士だと言っておきながら、レディにむかって、よく、そんな口がきけるわね」

「ひどい話だ」浮かれ騒ぐ人々のなかのひとりがいった。「なんて嫌な、老いぼれ野郎だ」

 アイザックおじさんは、不安そうな目で周囲を見てから、もう一ヤード動いた。女はふたたび、視線を地面におとした。それでも「二ペンスちょうだい」と聞こえよがしにいった。「わたしは軍人の未亡人なんだからね。心配しなくても大丈夫。一ペニーでいいから頂戴。一ペニーだけでいいから頂戴。マンディの旦那。お願いだよ。昔の女の頼みをきいておくれ」酔っぱらったマザー・ボーンは、アイザックおじさんの方へ覚束ない足どりで歩いていき、情をこめて両腕をのばした。

 人々は大喜びで嬌声をあげた。だがアイザックおじさんは背をそむけ、走り出した。手がのびてきて、彼の山高帽のてっぺんを叩いた。彼はもう、どの橋であろうと待つ気持ちは失せてしまい、できるだけ急いで逃げようとした。少年たちは野次をいれたり、口笛をふいたりしながらも、彼が大慌てで短い足を動かしていく先に、楽々と追いつくのだった。その後ろからやってくるのは酔っぱらったマザー・ボーンで、よろめき、のたうちまわりながらも、急いで跡を追いかけているうちに、敵である少年たちが、いつものように囃し立てる様子に激昂にかられてしまい、いつしかアイザックおじさんをつかまえることは忘れ、足をふみだしては、少年たちのひとりでもいいから、爪で引っかきたいという衝動にかられるのであった。

 

The people (a small crowd by this time) forgot the troublesome bridge, and turned to the new diversion. “Give the laidy twopence!” roared the boy on the post, in a deep bass. “‘Arf a pint ‘ud save ‘er life!”

Uncle Isaac looked desperately about him, but he saw no sympathy. Dockmen, workmen, boys—all were agog to see as much fun as possible in the time at disposal. The pursuing harpy came a step nearer, and bawled again, “Will you lend me twopence?”

“No!” cried Uncle Isaac, driven to bay at last. “No, I won’t! Go away! Go away, you—infamious creacher!”

“You won’t?”

“No, not by no means. Go away. Y’ought to be ashamed of yerself, you—you—you opstroperous faggit!”

“Calls ‘isself a gen’leman,” she said, lifting her gaze to the clouds. “Calls ‘isself a gen’leman, an’ uses such language to a lady!”

“Shockin’,” said one in the hilarious crowd. “What a wicked ole bloke!”

Uncle Isaac gave another unquiet glance about him, and moved another yard. The woman brought her eyes to earth again, and: “Won’t gimme twopence,” she proclaimed, “an’ I’m a orficer’s widow! Never mind, len’ me a penny; on’y a penny, Mr. Mundy. Do, there’sh a dear! O you are a ole duck!” And Mother Born-drunk stumbled toward Uncle Isaac with affectionately extended arms.

The crowd shrieked with joy, but Uncle Isaac turned and ran, one hand clapped to the crown of his very tall hat. He would wait for no bridge now, but get away as best he could. The boys yelled and whistled, and kept up at an easy trot with the quick scuttle of his short legs; behind them came Mother Born-drunk, tripping and floundering, spurred to infuriate chase by sight and sound of her unchanging enemies, the boys, and growing at every step more desirous of clawing at one of them than of catching Uncle Isaac.

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