アーサー・モリスン「ロンドン・タウンへ」 20章 182回

少年にしても、少女にしても、猫をかぶるという習慣がなかったので、二人とも口にはださなかったものの、その心にある思いを推し量るのに、洞察力は少しも必要ではなかった。哀れなナンがうろたえたのは、あらたな親戚関係が生じたという知らせを聞いても、ふたりがバトスンさんをすぐには受け入れようとしない様子に気づいたせいであった。ほんとうに、ふたりの様子に彼女は困惑した。彼女の単純な心にうつる彼の姿は、素晴らしい人格の、華々しい人物なのだが、残酷な世間から、悲しいことに投打され、それは恭しく同情されるにふさわしい人物であって、心冷たい余所者であっても、同情しないではいられない人物だった。さらに、他の如何なる人物であろうとも、彼と比べれば、ジョニーやベッシーから関心をいだいてもらうことであろう。彼は憎悪にちかい感情をこめて、何度も、何度も、ナンにそう言ってみせた。だが結局のところ、事を急いて進めすぎたのだ。ふたりとも、彼の真価をやがて理解するにちがいない。だが、それまでのあいだ、彼女は激しい失意を味わなければならなかった。

バトスンは十分気がついていた。だが、さしあたり、まったく気にしなかった。彼は勝利したのだし、しばらくのあいだ、不慣れな豊かさと快適さのおかげで、彼は満たされていた。そうではあるが、ここで絶対的な支配者としてふるまうために、もっと強く出なければいけないという意識が、彼にはあった。

アイザックおじさんがこの知らせを聞いたのは、火曜日の夜のことで、夕食を食べにきたときのことだった。一週間から十日間ちかく、ハーバー・レーンに、彼は姿をみせなかった。残業もある急ぎの仕事がはいったせいで、それは食料不足時においても断るわけにはいかない仕事であった。彼は何も疑ったことはなかった。さらにバトスンがよく訪ねてくるのは、ただ食事にありつけるというせいで、ナンに引き寄せられているのだと考えていた。

 そこで打ち明けられると、彼もジョニーたちと同じように腰をぬかしそうになった。彼はあたりかまわず腰をおろすと―幸いにも、そこは椅子の上だった―目をみひらき、口をぽかんとあけた。だが口をとじるよりも先に、彼は心をきめ、自分の道をすすむことにした。もう済んだことだし、知らないあいだに終わっていたのだから仕方ない。

 

Neither boy nor girl had the habit of dissimulation, and though they said little, it needed small discernment to guess something of their sentiments. Poor Nan was dismayed to perceive that they did not take to Butson instant on the news of the novel relationship. Indeed, it perplexed her. For in her simple view he was a resplendent person of finer mould, sore hit by a cruel world, and entitled to the respectful sympathy, at least and coldest, of the merest stranger. More, nobody could be more completely devoted than he to the interests of Johnny and Bessy; he had most vehemently assured her of it, again and again. But after all, the thing was sudden; they must realise his true worth soon. Though meantime she was distressed extremely.

Butson saw plainly enough, but for the present cared not at all. He had won his game, and for a little time unwonted plenty and comfort satisfied him. Though he was not insensible that this was a place wherein he must do something more to make himself absolute master.

Uncle Isaac got the news on Tuesday evening, when he came for supper. For a week or ten days he had been little seen at Harbour Lane, because of an urgent job involving overtime, a thing not to be neglected in these lean years. He had suspected nothing, moreover, supposing Butson to be so often attracted to Nan’s by the mere prospect of supper.

Now, when he was told, he was near as astonished as Johnny had been. He sat at random—fortunately on a chair—and opened mouth and eyes. But ere his mouth closed he had resolved on his own course. The thing was done, and past undoing.

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