再検討 サキ「耐えがたきバシントン」一部一章第四回

この場所に急に姿をあらわしたイバラのひとつは、ダマスク織りのバラの花弁から目立つもので、状況が異なれば、それはフランチェスカの心の平和となったことであろう。ひとの幸せとは過去にあるよりも、たいていは将来にあるものである。誠に失礼なことながら、それらの品々は評価されているものであり、叙情性にあふれ、影響力のあるものだが、悲しみの王冠のなかでも悲しいものであり、不幸な出来事を予期しているものだと言えるのかもしれない。ブルー・ストリートにある家は、旧友のソフィ・チェトロフから預けられたものである。だが、それもソフィの姪のエメリーン・チェトロフが結婚するときまでである。そのときには結婚の贈り物として、エメリーンにあたえられることになっていた。エメリーンは今十七歳、かなりの器量よしであり、独身女性としての期間が安全に見込めるのは、せいぜい四、五年だった。その期間がすぎた後には待ち受けているものは混乱で、フランチェスカが苦しんでいるのは、彼女の魂となった隠れ家から引き離されるせいであった。彼女が自ら想像力をはたらかせ深い谷間に橋をかけたのは、わずかな期間だけと言ったほうが正しかった。頼みの橋とは、学校にかよっている息子のコーモスで、今は南部地方のどこかで教育をうけている。さらに言うならば、その橋を築いている可能性とは、コーモスがもしかしたらエメリーンと結婚するかもしれないということだった。もし、そうなったときにフランチェスカが見いだす自分の姿は、トライフルをつくって周囲を困らせながらも女主人として支配している姿で、ブルー・ストリートの家もまだ支配することになる。ファン・デル・メーレンは欠かすことのできない午後の光を浴びながら、名誉れある場所にかかっていた。フルミエの像も、ドレスデンの彫刻も、ウースターの年代物の茶器セットも妨げられることなく、壁のくぼんだニッチにあるだろう。エメリーンはこじんまりとした日本風の奥の間も手に入れることになるだろうが、そこはフランチェスカが夕食後のコーヒーを時々飲んだりする場所で、居間とはしきりがあるので、彼女はそこに自分の持ち物を置いたりもしていた。橋をどうかけるのかという構想は、細部にいたるまですべて、注意深く考えぬかれていた。ただ、コーモスがすべての釣り合いをとる架け橋である状況が、唯一の不幸でもあった。

And herein sprouted one of the thorns that obtruded through the rose-leaf damask of what might otherwise have been Francesca’s peace of mind.  One’s happiness always lies in the future rather than in the past.  With due deference to an esteemed lyrical authority one may safely say that a sorrow’s crown of sorrow is anticipating unhappier things.  The house in Blue Street had been left to her by her old friend Sophie Chetrof, but only until such time as her niece Emmeline Chetrof should marry, when it was to pass to her as a wedding present.  Emmeline was now seventeen and passably good-looking, and four or five years were all that could be safely allotted to the span of her continued spinsterhood.  Beyond that period lay chaos, the wrenching asunder of Francesca from the sheltering habitation that had grown to be her soul.  It is true that in imagination she had built herself a bridge across the chasm, a bridge of a single span.  The bridge in question was her schoolboy son Comus, now being educated somewhere in the southern counties, or rather one should say the bridge consisted of the possibility of his eventual marriage with Emmeline, in which case Francesca saw herself still reigning, a trifle squeezed and incommoded perhaps, but still reigning in the house in Blue Street.  The Van der Meulen would still catch its requisite afternoon light in its place of honour, the Fremiet and the Dresden and Old Worcester would continue undisturbed in their accustomed niches.  Emmeline could have the Japanese snuggery, where Francesca sometimes drank her after-dinner coffee, as a separate drawing-room, where she could put her own things.  The details of the bridge structure had all been carefully thought out.  Only—it was an unfortunate circumstance that Comus should have been the span on which everything balanced.

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