隙間読書 2018.08 綿貫六助 「幽霊寺の恋愛」

昭和4年8月 雑誌「グロテスク」収録


乳飲児をかかえながら、夫「大木」を亡くした夏子。共に寺で夫の最期を看取った修作は夏子に恋慕するように。なんとか夏子をものにしようとするが、そのたびに大木の幽霊が大騒ぎをする…という話。


夫「大木」と比べると何とも野暮ったい修作だが、その真面目さ故に修作聖人とも呼ばれる男である。「大木」と「修作」はこのように書かれている。

まずは大木について…。

某大学の哲学科にいた大木と、×××××きたのは彼女が十四の春で、革命家を以て自ら任じてゐた熱情的な詩人、颯爽とした気品の高さ、美男子な大木は、純真な夏子の胸に慕わしく懐かしい王國であった。同校生徒から首領に押されて、不良学生の排斥運動、その頃から躓き始めて、我とわが、気慨に乗倒(まっさか)さまの急坂落(さかお)し、??落魄の挙句を、肺患いに悩み、かねて住職の籍をおいた雲高山に帰山すると、不浄な反逆者として檀徒からも爪弾き、放逐される処を、修作の義侠で、重態な身を辛うじて寺に踏停まったものの名状できぬ困窮の中で死んだのだ。

比する修作については以下のとおり。

夏子に従えば、白金のやうに気高く重々しく鋭く輝かな恋人は遠く去り、ひらめきは消えて、恩人とは云え鉛の如く鈍重な修作が目の前にゐるのだ。

あんまりな書きぶりではあるが、この人の良い修作をコケにして笑う…という毒のあるユーモアも、この作品の魅力である。


なんとか夏子と結ばれたい修作は思案する。

『こんなこッて煤の落ちる汚ねえうちへお夏さんを寄せられるかい。小汚ねえうちだなあ。煤とゴミと小便ばつかりだ。あああッ!』嘆声を漏らした。

「あの親爺の宿屋の二階ぢゃ、どうしても、お夏さんがかたくなつてゐて駄目だ。ハテナお寺にするほか法はねえかな…」


お寺の大木の位牌の前で、修作は夏子と結ばれようとする。そのたびに大木の幽霊は、にぎやかに気配をあらわす。この幽霊があらわれるときのにぎやかさも、この作品の魅力だろう。以下の段落は作品より。


生毛で白くほかした襟足からふつくりとした頰にかけて厚い××××××ようとする途端に、

ードンドン! ドドドッ!ドドンドドンドン!ードン本堂の方から、余韻も響きもなく、かすかにきこえてくる。二人は耳を欹てる。ードドン!ドンドドン!チン!チン!ー

『あッ、大木さんがきたッ!』かう云う聖人の手はふるへ、夏子の頰には吹出物のやうな冷汗が滲み出した。

さらさらさらッと襖をあける音、みしりみしりッと近寄る気配。


さらに修作聖人が別の機会をとらえ、夏子にせまると大木の幽霊は現れる。以下のとおりである。


その時、大木の立つた姿が絞るやうに消える聖人眼に、大木の死の床が現れた。それは夏子と二人で看病した大木の寝床。汚れた布団から骨ばかりな真ッ青な手が出た。かすかに死苦の羨ふ物凄い顔がぬッと出て、くぼんだ眼をひらくと、二人の抱擁を睨みつけた。


修作聖人の滑稽さ、にぎやに現れる幽霊…これは何となく英国幽霊譚のなかにありそうな気がしなくもない。綿貫六助なんて作家は、今日初めて知ったのだが、元軍人で早稲田の英文に学んだ人らしいから英国怪奇譚を読んだことがあるのかもしれない。

2018/8/11読

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