2019.01 隙間読書 西崎憲「東京の鈴木」

「万象」収録


「東京の鈴木」というタイトルから連想するものは何だろうか? 平凡さ、どこにでもいるような人たち……だろうか。

 でも読んですぐにその思いは覆される。冒頭から硬質な、でもそれでいて詩的な文に驚く。

端正な文を心地よく読んでいくと、「トウキヨウ ノ スズキ」という人物から警視庁に届いたカタカナのメールに出会い、そこでまた驚く。簡潔すぎるくらい簡潔なカタカナのメールは、不思議な詩のようだ。

「トウキヨウ ノ スズキ」が届いたあとに起きる不思議な事件は絵画のように心に残って、私たちの心中の願望やら不満やらを優しく、でもユーモアをこめて語ってくれる。「ああ、そう願っていた」と自分の内なる思いに気がついて驚く。

不思議な事件がおさまったかと思いきや、最後の一文で「また何かがはじまりそう」という期待感をいだく。

「東京の鈴木」という平凡なタイトルをいだく此の作品には詩があふれている。硬質な文にも、カタカナのメールにも、私の心の願望を実現してくれたような事件にも、新たな歴史を予感させる最後の一文にも……タイトルからは思いもよらない、あふれでる詩想に心穏やかになる。

そして「東京の鈴木」が収録されている「万象」はとても丁寧なつくりの電子書籍である。さらに各短編の扉に記された手書きのタイトルが、電子書籍にあたたかみを添えていて、細かなところまで行き届いた配慮に感謝しつつ頁をとじる。

2019.0103

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