作者:菊池寛
初出:「新小説」1924年
文豪山怪奇譚
付記によれば、白梅園鷺水の作品「お伽百物語」を、菊池寛が翻刻した作品らしい…文のリズムに慣れるのに少し時間がかかってしまった。
富田無敵という剣術の師は、山中で僧に出会う。実はその僧は山賊強盗であった。でも無敵が強いのは分かっているから追いはぎはしないと言って、家に連れ帰るともてなす。
僧の息子も強盗であった。その腕前には怖ろしいものがあるから、僧は「手討ちに」するように無敵に頼みこむ。
無敵と息子「林八」との対決の描写が何とも生き生きとしていて、思わず引き込まれるものがある。
「林八は手に馬鞭一本を取たるばかりにして刃物をもたず。無敵はあまり心やすき事におもひ常に鍛錬せし弾丸をもつて。只一ひきにと打かくるに。鞭をあげてあやまたず敲落(たたきおと)し。その儘飛あがりてたちまち梁のうへにあり。こはいかにとはたとい打ば。飛ちがえて無敵が後にあり。払へれば前くくれば右手あるひは戸のさんを走り。鴨居に立壁をつたふ事蜘蛛よりも早く」
こんなふうに米八に翻弄される剣術遣いに、「無敵」とつけるなんて作者のユーモアを感じないではいられない。
でも最後、無敵がその屋敷を探そうとしても「道の違ひたるにや終に二たび逢事なしとぞ」という終わり方は怪談のよう。面白い、けれど怖い…という味わいのある作品のような気がした。
読了日:2018年5月10日