作者:本堂平四郎
文豪山怪奇譚収録
主の命により急ぐ荒川卓馬は、夜間の立ち入りが禁じられた山に入る。卓馬の刀の傷をねらうように襲いかかる魔物たち。
刀とは、こんなふうに語るものかと知った…。
まずは卓馬のさしている刀の描写。
「彼はニ天流の達人である。左近将監(しょうげん)作二尺六寸五分の名刀を、四寸練り上げて手頃に仕立て、応永康光作一尺八寸の脇差を添え」
1935 年頃の作品のようだが、当時であればこの描写を読めば「おおー」と感動できる人たちがいたのだろうか? 私には思い浮かべることも難しいが。
最後の段落は、こんなふうに刀を語る語があるのかと衝撃をうけた。
「光忠が創意の重華丁子(じゅうかちょうじ)の刃渡し、影映りという美しき肌を現わし、気品もあり、花実兼備の刀である。桜の花を重ねたような刃縁に、匂い深く」
刀を語る日本語を知らない私には、話の内容よりも、刀を語る言葉の豊かさに驚いてしまった。
2018年5月10日読