丸山健二「千日の瑠璃 終結2」一月九日を読む
ー対照的な二つの死ー
「千日の瑠璃」は各話を書き上げたあと、其々の話をどう並べていくか床一面に原稿を広げながら考えた……そんな話をオンラインサロンで丸山先生から伺ったような記憶がある。
天皇の死の後に来るのは、盲目の少女が可愛がって飼っていた黄色い老犬の死である。形ばかり大袈裟な死の儀式、愛犬の死に衝撃を受ける少女……この対比が印象的な配置である。
一月九日は「私は食器だ」と老犬のステンレスの食器が語る。老犬が食器に託した飼い主の少女を思いやるメッセージ、食器を手にする少年世一……ちっぽけな犬用食器に老犬が込めた真心が、不自由な少年にも伝わってゆく。そんな様子が前日の形式的なことに終始する死とは対照的である。
にもかかわらず
老犬が最後の力を振り絞り
舌を使って私に記した
この子をどうかよろしくという意味の意志は消えず、
私を拾い上げてくれた少年の心にも
正しく伝わり、
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」5ページ)