サキ「耐えがたきバシントン」Ⅷ章 79回

道ばたに低木がしげる小道の角をまがって広い通りにでると、エレーヌがながめている広々とした丘の方へとだんだん登り道になっていき、丘は遠いままではなく、彼女の方へと近くなってきて、黄色く塗られた馬車が数台、茶色と白のまだら模様の馬にひかれているのが見えてきた。近づいてくる一行の粋な雰囲気から、移動中の動物のサーカスだということがわかったが、原始的な鮮やかな色彩で飾られたその外見は、子どもの頃の好みを強く反映したものであり、芸術の価値について愚かしいことを学校で教えられる以前のものであった。鍵がかけられていない状態のため、この出会いは明らかに歓迎されざるものであった。雌馬は、鼻孔、両目、優美にたつ両耳と六ヶ所で、すでに詮索をはじめていた。片方の耳は急いで後ろへとたおれ、近づいてくる一行について、高貴な身分で繊細であるとか態度が立派であるということを、エレーヌが言おうとしていることを聞こうとしていた。だが、そのエレーヌですら、象やらラクダやらが行進している状況を説明しかねていた。そうかと言って引き返すことは、やや臆病であるように思えたし、そもそも雌馬は方向転換を怖がって急に駆け出そうとした。半開きになった門のむこうに農家の庭がつづいていたが、それは困難からぬけだすための機会をあたえてくれた。

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