サキの長編小説 「耐えがたきバシントン」12章143回

 

「きがえて夕食にしましょう」

 

食事は、最近フランチェスカとコーマスがふたりでとる食事の大半がそうであるように、無言のうちにすすんでいった。これ以上の失敗はないというくらいの大失敗をやらかした今となっては、もはや何も言うべきことはなかった。状況を無視しようとしても、議論するほどのことではない話題にすすんでいこうとしても、どちらもわざわざ経験するほどのことではないだろう。だから夕食はすすんでいったものの、苦々しい深い穴に隔てられたふたりのあいだにある親密さからは疲労感が漂い、陰鬱な雰囲気につつまれていた。そしてふたりの心は互いにたいする怒りがたぎっていた。

 

フランチェスカは、上の部屋にコーヒーをもってくるようにと女中に言いつけたとき、ある種の安堵感をおぼえた。コーマスは黙り込んでいたが、顔には不快感があらわれていた。だが彼女が立ち上がって部屋を出ていこうとしたとき、なかば嘲るような笑い声を小さくあげた。

「そう悲劇的な様子をみせる必要はない」彼はいった。「勝手にすればいい。アフリカ西海岸のみすぼらしい家にいくよ」

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