サキの長編小説 「耐えがたきバシントン」 Ⅻ章142回

コーマスを叱ってみたところでどうなるかについては、彼女はずいぶん昔に理解していた。そうしてもコーマスに関していえば、時間と労力をむなしく費やすだけだった。だがその夜、彼女が舌鋒をむけたのは、過度の感情をかきたてようとする単なる気分転換のためであった。なんの意見を述べることもないまま、彼は耳を傾けながら腰かけていた。そこで自己防衛や抗議の行動をおこさせようとして、彼女は意図的に言葉をぶつけた。彼女は惜しむことなく告発した。相手を損なう言葉になるほど、議論の余地がないほど真実味をおび、悲劇的な言葉になるほど、その言葉を語っている人物が、彼がこの世で気にかけるただ一人のひとのものなのだと思えてくるのだった。だが彼は黙ったまま、見たところでは平静にその言葉を終わりまで聞いていたが、いっぽうで彼女は応接間の喜劇のために一説ぶつのだった。彼女が発言の権利をふりかざして話しているときに、彼がみせた報復とは、激怒をおしやるような優しい返事をするのではなく、むしろ激怒をあおるかのような的外れの返事をすることだった。

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