サキの長編小説 「耐えがたきバシントン」 Ⅻ章141回

よりによって彼女の神聖なる場所で、しかも大切に保管している所有物に囲まれている状態で、この恐ろしい提案はなされた。彼女が大切にしているその家の崇拝物は、過去の日々の記念品であったり、思い出の品であったりしたのだが、おそらくオークションにかけても大した金額にはならないものもあれば、なかには明らかに価値があるものもあった。だが彼女にとっては、すべてが貴重な、価値あるものだった。なかでもコーマスが値踏みをするような、無礼な視線をむけているヴァン・デル・ムーレンは、そうした品々のなかでも、もっとも神聖な品であった。フランチェスカが街の住まいを離れ、病のため寝室にこもりっきりのときでも、遠い昔の戦闘場面を厳粛に描いた素晴らしい絵は、戦のときでも威厳をしめそうとする騎士あがりの王がご機嫌うかがいを好むため、その心をくすぐろうとして描いたものであったが、それでもフランチェスカはまず街に戻れば最初に観にきたし、病が快方にむかえば最初に観にきた。もし火災報知器が使われていたとしても、その安全性について彼女は悩んだことだろう。それにもかかわらずコーマスが提案してきたのは、その絵と別れるべきだということであり、しかも鉄道株や他の魂がないようなものを売るときのような言い方をしたのだ。

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