チェスタトン「マンライヴ」一部三章第70回

少なくとも、唯一の例外はロザムンドの付き添いのメアリー・グレーで、彼女の沈黙は何よりも熱意をあらわしているようなものであった。話しはしないのだけれど、彼女は今すぐにでも話すかのように思えた。おそらく、これこそが付き添いの役割を説明している。イノセント・スミスは、他の冒険に身を投じたときのように、彼女に話をさせようとする冒険に身を投じたように見えた。成功はしなかったけれど、無視をされたわけでもなかった。彼が何かをなしとげたのなら、この静かな人物に注目を集めたということであり、また彼女を幾らかでも遠慮がちな存在から不思議な存在へと変えたということであった。だが彼女が不思議な存在だとしても、その不思議はまだ生じたばかりで、踏み荒らされていることなく、まるで空の不思議のようであり、春の森の不思議のようであった。たしかに彼女は他の二人の少女より年上であったけれど、彼女には早朝の情熱があり、若者の初々しい真剣さというものがあった。それはロザムンドが金をつかううちに失ったように思えるものであり、ダイアナが金を守ろうとして失ったように思えるものであった。スミスはしげしげと彼女をながめた。彼女の目にしても、口にしても、間違った感じで顔に配置されていた。だが、その間違った配置こそが正しい配置なのであった。彼女は顔ですべてを言い表すこつを心得ていた。彼女の沈黙とは、いわば信頼できる拍手であった。

 

At least, the only other exception was Rosamund’s companion, Mary Gray, whose silence was of a much more eager sort. Though she never spoke she always looked as if she might speak any minute. Perhaps this is the very definition of a companion. Innocent Smith seemed to throw himself, as into other adventures, into the adventure of making her talk. He never succeeded, yet he was never snubbed; if he achieved anything, it was only to draw attention to this quiet figure, and to turn her, by ever so little, from a modesty to a mystery. But if she was a riddle, every one recognized that she was a fresh and unspoilt riddle, like the riddle of the sky and the woods in spring. Indeed, though she was rather older than the other two girls, she had an early morning ardour, a fresh earnestness of youth, which Rosamund seemed to have lost in the mere spending of money, and Diana in the mere guarding of it. Smith looked at her again and again. Her eyes and mouth were set in her face the wrong way—which was really the right way. She had the knack of saying everything with her face: her silence was a sort of steady applause.

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