隙間読書 坂口安吾『風博士』

『風博士』

作者:坂口安吾

初出:1931年(昭和6年)

青空文庫

日比谷 日本ミステリ読書会の次回課題本は坂口安吾の「復員殺人事件」「不連続殺人事件」なので、さっそく安吾の作品を読んでみた。以前、「安吾捕物帳」が途中で読むのをやめた記憶があるから、まずは短めのこの作品を読むことにした。

いや、笑える作品だった。同時に安吾は言葉の冒険家なのだと実感。

自殺した風博士の遺書には、ライバル蛸博士を否定する言葉がならぶ。その言葉の力強さときたら。

「否否否。千辺否」

「否否否、万辺否」

そこまで否定したいのか、蛸博士を。と感動した。

蛸博士に妻を篭絡されてしまう次のくだりも思わず笑ってしまう。

「余は不覚にも、蛸博士の禿頭なる事実を余の妻に教へておかなかつたのである。そしてそのために不幸なる彼の女はつひに蛸博士に籠絡せられたのである。 ここに於てか諸君、余は奮然蹶起したのである。打倒蛸! 蛸博士を葬れ、然り、懲膺せよ憎むべき悪徳漢!」

蛸博士を葬るべく風博士は行動する。蛸博士が禿げ頭を隠している鬘を奪うのである。

「故に余は深く決意をかため、鳥打帽に面体を隠してのち、夜陰に乗じて彼の邸宅に忍び入つたのである。長夜にわたつて余は、錠前に関する凡そあらゆる研究書を読破しておいたのである。そのために、余は空気の如く彼の寝室に侵入することができたのである。そして諸君、余は何のたわいもなくかの憎むべき鬘を余の掌中に収めたのである」

だが風博士は敗れる。蛸博士は別の鬘を用意していたのである。

風博士は意味不明の言葉を残して姿を消す。

「TATATATATAH!」

これはツァラのDADAからきているのではなかろうか? 「DADAは何も意味しない」と言ったツァラだけれど、まさか風博士と蛸博士の戦いにDADAの言葉が引用されるとは思わなかっただろう。でも知ったなら喜んで「TATATATA」と言いそうな気がするが。

風博士は意味が分からないという感想が多いようだが。筋はすっきりとおっていると思う。風博士の姿が消えたのは風になったせい。風を風邪にかけたのだろう。蛸博士もインフルエンザにかかったのだから。

「諸君、偉大なる博士は風となつたのである。果して風となつたか? 然り、風となつたのである。何となればその姿が消え去せたではないか。」

「この日、かの憎むべき蛸博士は、恰もこの同じ瞬間に於て、インフルエンザに犯されたのである。」

意味のない笑い、言葉遊びにみちたこの作品、好きだなあ。読書会の課題本も読むのが楽しみになってきた。

読了日:2017年8月30日

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