小泉八雲著・平井呈一訳「仏領西インドの二年間 上」

1887年から1889年にかけて、八雲はフランス領西インド諸島マルティニーク島を旅行した。本書「仏領西インドの二年間」 (Two Years in the French West Indies) は翌1990年に出版され、同年八月、八雲は松江に到着した。

 日本の伝説や人々に優しい眼差しをむけ、克明に物語ってきた八雲。その土壌となる異国の島国への愛情は、訪日以前に、すでにマルティニーク島で形成されていた……と感じた。

 八雲は日本に魅せられたのと同じように、マルティニーク島にも魅せられていた。日本と同じ島国であり、深い山々によって地域が分断されているマルティニークと日本は、相通じる風土があるのかもしれない。 

たとえばマルティニークには、ゾンビをはじめとして独自の不思議な伝説が残る。

「ゾンビって何だね」と現地の娘に問いかけた八雲は、おそらく英語圏に初めて西インド諸島の伝説「ゾンビ」を伝えた存在ではないだろうか?

八雲にマルティニークの女性はゾンビをこう説明する。

「夜、大通りなんかを歩いていらっしゃると、大きな火をご覧になります。そっちへ行こうと思って、どんどん歩いていくと、行けば行くほど。火は先の方へ動いていきます。これはゾンビがいたずらをしているんです。……そうかと思うと、三本足の馬がそばを通って行ったりしますが、これもゾンビのしわざです。」(「仏領西インドの二年間」252頁)

島民の顔立ちや姿に型やら色調やらを感じるようになった八雲は、現地の農場主に自分の印象が正しいか訊ねたところ、混血人種の肌についてこう答えをもらう。

皮膚の色、これについて正確な分類がでけるかどうか、ことに外来の人には、でけんのじゃなかろうか。たとえばね、あんたの目には、赤い肌のタイプ、黄いろい肌のタイプ、茶色い肌のタイプについて、一般的な概念は与えるだろうが、しかし田舎の地方で暮らし慣れているクリ-オール人のもっと肥えた目には、混血人種の一人一人がそれぞれ独自の特別の肌の色をもっているように見えるんだね。たとえば、いわゆるカプル型ね、いちばんりっぱな体格の型を見せてくれるカプル型を取り上げてみますか。-あんた方外国人は、この種族は大体において赤っぽい色だという印象をおうけになるが、その一人一人が個人的にそれぞれ色あいが違っておることには気づかれん。この違いはね、黄いろはかそれとも茶色かというような濃淡の違いを観察するよりも、よっぽどむずかしい。そこでね、わたしなんかから見ると、カプルの男女がは、みんなそれぞれ個人個人の色をもっている。マルティニークじゅうで、―同じ父と母から生まれたやつでない奴で、肌の色が全然同じ二人の混血人なんて、わしなんかとうてい信じられん話だね。(「仏領西インドの二年間」182頁)

この言葉を受けとめたのだろうか。八雲はマルティニークの人々の様々な肌の色合に目をとめ、人種が混血していく過程であらわれる肌の色の変化に感嘆し、島で出会う人々の肌の色まで仔細に記している。その記述は、人種のまざり具合によって異なる肌の色への賛美の念にあふれている。

荷運び女も、洗濯女も、「仏領西インドの二年間」にでてくる島民の生活は克明に描かれ、八雲が島の生活を丹念に観察、現地の人々から話を聞いていたのだろうことがうかがえる。    

八雲がこんなに賛美した西インド諸島を去ったのはなぜだろう? もしかしたら毒蛇のせいでは? 八雲は、何度も怖ろしそうに毒蛇のことを語っている。毒蛇がいなければ、八雲はマルティニークのひとになってしまい、松江の小泉八雲はいなかったのでは……と思うと、毒蛇に感謝したくなる。

八雲のマルティニークという風土、伝説、島の人々への思いを平井呈一も受けとめ、実に楽しそうに生き生きと訳している。

千フィートも下に海を見下ろすような高いところへ登ると、どんな日、どんな季節でも、目に見える世界の涯は、なにかギョッとするような妖怪味をおびてくるのだ。(「仏領西インドの二年間」369頁)

 ただ本書における平井訳は、オノマトペがずいぶん多いように感じられた。たとえば「キャーキャー」が一頁に三回も繰りかえされることもあって、やはり正直なところ多すぎるような気もした。どういう経過をへて、平井の文からオノマトペが消えていったのだろうか……と平井の文が形成されていく過程が気になりつつ頁をとじる。

2019.02.25読了


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