アビジット・バナジー反貧困ラボからの提案「社会から取り残された子供のために学校を機能させるには?」

Policy Publications | The Abdul Latif Jameel Poverty Action Lab.

Making Schools Work for Marginalized Children

 

アデュル・ラティーフ・ジャミール反貧困ラボ  200611

 

1 インドにおける安価で、効果的なプログラムの結果

 

だんだん多くの子供たちが学校に通うようになるにつれ、政策担当者たちは子供たちが学校で実際に何を学んでいるのかに焦点をあてるようになってきた。たいてい、貧しさゆえに社会から取り残された子供たちは教育システムから取り残されている。学校はしばしば不適切なカリキュラムをくみ、学習に遅れてしまった子供たちの必要性に適応していない。多くの子供たちは定期的に出席することが難しかったり、ひもじさや病のせいで学習することが難しい。ほかの子供たちにしたところで、基本的な事項を習得しないまま学年があがっていくので時間を無駄にすることになり、教えられている授業をうける学力の準備が整っていない。教員をふやし教科書を配布することで学校の全体的な質を改善しようとする試みは、教員や生徒の動機を改善することになった。だが取り残された子供たちが機会を利用としても、必要となる基本的な手段を持ち合わせていなければ、こうした子供たちの助けにはかならずしもならない。この報告書では、補習教育プログラムがどれだけ広範囲におよぶものか調べている。このプログラムでは、取り残された子供たちのためにバラキスと呼ばれるチューターを派遣することで、基本的な算数と読解能力の改善に焦点をあてて子供たちに学習をよく理解させた。バルサキ・プログラムと呼ばれている教育援助は、プラサムによって計画、実行された。プラサムとは、「すべての子供たちを学校へ・・・そしてよく学ばせよう」ということを目標にしているインドの組織である。このプログラムから任意抽出された評価は、2001年から2002年にかけて、ヴァドラとムンバイで集められたものである。2005年にBanaerjee et alで報告されているように、この報告書は任意抽出された評価から発見した事柄に基づいている。

 

この結果によれば、プログラムがみんなに知られるようになって2年目のことだが、取り残された子供達のうち8から13%の子供たちが一桁と二桁の引き算、二桁と三桁の加算、わり算、かけ算、簡単な単語問題、ほかにも多くのことができるようになった。任意抽出して研究し評価してみたところ、この2年目の結果からプログラムが効果的な教育援助プログラムであることが判明した。インドにおける一年間の平均教育支出が78ドルであるのに比べ、プログラムにかかる費用は、補習授業をうけた子供一人あたり毎年わずか2.25ドルにすぎない。

 

こうした調査からわかるが、低コストで学力をつけるという観点から見ると、取り残された子供たちに基本的な学力をつけようとする試みは結果がかなりでる。さらに一般的には、こうした結果が提起する重要な問いかけは、貧しい人々にはどんなカリキュラムが適切なのか、どう教えるのが適切なのかということである。

 

2 補習教育プログラムの必要

 

多くの途上国の学校では、保護する必要のある子供たちがかなりの割合をしめているが、そうした子供たちの必要性をみたす戦略をはっきりとっていない。例えばインドでは、教師は学力の高い生徒と仲良くし、しばしば通常のカリキュラムを進める。一方で学力の低い生徒たちには、どれほど内容を学習しているかということに関心が払われることがない。調査の最初にでてくる例だが、ムンバイの3年か4年の子供たちの多くは、1年で学ぶべき学力を身につけていなかった。25パーセントが文字を理解していなかった。さらに35パーセントが基本的な数字を理解していなかった。2002年にヴァドダラにおいておこなわれた試験では、平均的な3年の生徒がとれている点数の割合は、算数では16パーセントだった。この結果が意味するところは、生徒は大きさの順に二つの数字を並べ、一桁の数を足すことができただけということだ。

国家レベルでは、カリキュラムから取り残された多くの子供たちの状況は、プラサムが17州で実施した13000人の子供たちへの調査結果に反映されている。それは公立学校に通う11歳から14歳の子供たちの45パーセントが、簡単な単語すら読めないというものだ。インドの基本教育に関する公の報告書(PROBE)がはっきりと様子を報告しているが、インドの貧しい学校にかよう平均的な子供たちにとって、教科書にしても、カリキュラムにしても、理解しがたいものである。

 

この問題はインドに限らない。ケニアで困窮している学校に教科書を提供するプログラムが行われたが、その評価では、第一回めのテストで良い点をとった生徒だけがプログラムから得るものがあることがと判明した(Glewwe et al 2002年)。これは勉強のできる生徒だけが教科書から学んだという例かもしれない。学校にいるすべての子供たちが必要にあったやり方で教えてもらい、実際に学んでいることを教えてもらうように急いで対応する必要がはっきりしている。

 

3 バルサキ・プログラムによる基本学力の指導

 

教育を支援する組織プラサムが保護する必要のある子供たちのための指導者を雇い訓練した

 

プラサム(3-1参照)は、授業に完全に参加するのに必要な基本学力をつけていない子供たちに提供するルサキ・プログラム(3-2参照)に着手した。このプログラムの対象となったのは、3年か4年の生徒のうち1年や2年の学力を身につけていない子供たちだった。彼らは簡単な単語のつづりも書けず、簡単な段落も読むことができず、20まで数えることができず、1桁の足し算および引き算もできなかった。教員から他の子供たちより勉強が遅れていると判断された子供たちは、4時間ある授業のうち半分の2時間を20人単位の通常のクラスから取り出され、プラサムから派遣されたチューターと一緒に補習授業を受けた。特別なカリキュラムにもとづいた指導は、こうした子供たちが1年および2年の学習内容を習得するのを手助けするように構成された。

 

3-1 プラサムとはインドの一般教育に貢献している大きな組織である

 

バルサキ・プログラムとは、プラサムによって実行された最初のプログラムだった。プラサムとはインドの大きな組織であり、インドにおける初等教育の質の改善に貢献している組織である。ユニセフからの支援をもとに1994年にムンバイで設立されてから、プラサムは13州で都市においても、田舎においても拡大し、1年間でおよそ200000人の子供たちと接している。プラサム・プログラムでは、今、「リード・インディア」という活動も行っている。その活動では地元のボランティアを使って村の子供たちに基本的な読書指導をおこない、子供たちに貸し出す本を村が配布できるように支援している。この活動の目的は子供たちの読書能力を強化し、読書により学ぶという文化をすすめることにある。「リード・インディア」に参加した子供たちは、2002年後半から16万人をこえた。最近、プラサムはプラサム・リソース・センターを設立し、インドの教育のための調査と評価の中心機関として役割を果たすようになった。このセンターをとおして、プラサムは様々な教育機関や州政府のために、教育についての大切な調査と評価をおこなっている。例えば、ASERのキャンペーンのもと、プラサムは国レベルでの読解能力の評価をおこなっている。

 

3-2 バルサキ・プログラムのハイライト

 

・都心部にある公立学校にチューターを派遣して、社会から取り残された子供たちが効果的に学習するのに必要な基本的な数学と読む能力を身につけるのを手伝った。

 

3年と4年の生徒のうち多くの者が、基本的な算数の能力(数の理解、20まで理解する、一桁の数を並べる、一桁の足し算と引き算)と読む能力(単語の理解と簡単なパラグラフの理解)を身につけていないという事実にしたがって開始した。

 

1年、2年の算数と読む能力を習得していない2年、3年、4年の子供たちを対象とした。

 

・チューターは村の者を雇い、費用を低くおさえ、親しみやすい学習環境を促すようにした。

 

・チューターを頻繁に交代することで、プログラムの成功が少数の優秀なバルサキスによらないようにした。

 

・少人数クラスにより生徒一人一人へ注意が届くようになった。

 

・チューターは利用できる場所を使うので、諸経費も安く、資金もおさえることができた。

 

・プログラムは簡単に模倣することができ、広い範囲で実行することができることがわかった。

 

3-3チューターは地域の人を雇いいれたところ、教員よりも低い給料ですんだ

 

費用を低くおさえつつも、劣悪でない学習環境にするために、バルサキ、あるいは「子供たちの友達」と呼ばれるチューターが地元の地域共同体から雇われた。たいていの場合、チューターは若い女性であり、500から750ルピー(公の換算レートで10ドルから15ドル)が支払われた。バルサキは最低でも中等教育を終えていた。バルサキは学校が始まるときに2週間の訓練をうけ、教えながら教え方を向上する研修をうけた。

 

3-4 このプログラムのせいでクラスサイズも影響をうけた

 

バルサキ・プログラムは、実行可能な点で子供たちに三つ影響をあたえた。第一にバルサキにあずけられた子供たちにとって、基本的な事柄に重点をおくことで適切なレベルになった。二つめにクラスを二つに分割することで、プログラムはクラスの人数を、いつもの半分に減らした。クラスサイズを少人数にする効果は学力のある生徒にも、基本的なことを習得していない生徒にも、双方に影響を与えた。三番目に能力別に、場合によっては同じ学力の生徒と授業をうける効果は、学力がもっとも低い生徒20人がバルサキと共に学ぶときにあらわれた。一日の授業のうち半分を、通常のクラスの生徒(学習能力の高い生徒グループ)は同じ学力の生徒か、学習レベルが進んでいる生徒といっしょに受けた。

 

4 バルサキ・プログラムの評価

 

4-1 無作為に抽出した結果

 

バルサキ・プログラムはムンバイで初めて1994年に実施されたものだが、2000年にムンバイから拡大して、グジャラート州の新しい町ヴァドダラへ広まった。2000年度の当初は、123のヴァドダラの学校にはまだひろまっていなかった。プログラムの影響を評価するために、これらの学校に順番は無作為にプログラムを普及させることに決めた。

 

2000年に実施された1年間のテストケースの結果は報告され、地元の有識者は広範囲にわたる協議した。調査研究員は、参加したすべての学校に補習クラスと通常クラスを保証する無作為抽出で評価された戦略を採択し、2年間パルサキ・プログラムの援助をうけることにした。2001年(1年目)、プログラムはヴァドダラのほとんどすべての学校に広まった。半分の学校は補習のチューターに3年を担当させ、残り半分の学校は4年を担当させた。2002年(2年目)、学校はチューターをどの学年も代わる代わるあてた。このプログラムの影響を測定した結果、3年の内容をバルサキに教えてもらった3年生(補習グループ)は、4年の内容をバルサキに教えてもらった3年生(比較グループ)と同等であった。

 

4-2 異なる内容での試み

 

ヴァドダラでの結果からでてくる結論をえるために、同じようなプログラムがムンバイのある学区で同時に実行された。ムンバイでは、このプログラムが1994年から実施されていた。ムンバイでの一年目、半分の学校が2年生の授業でバルサキに教えてもらい、半分は3年生の授業で教えてもらった。2年目の年には、バルサキに2年生を教えてもらっていた学校は、3年生を教えてもらうことにした。バルサキに3年生を教えてもらっていた学校は、4年生を教えてもらうことにした。

 

4-3 成功を測定する

 

プログラムの目標は基本的な学力を改善することにあるので、結果測定は基本的な算数と読む能力になった。教育の専門家の助けをかりてプラサムが作成した算数と言葉の達成テストの点数を使用した。測定された能力は、基本的な数の理解、数える、一桁と二桁の数を並べる、基本的な単語の問題を解決することである。三回テストが実施された。年度始めの第一回テスト、中間テスト、年度終わりの学年末テストである。毎回のテストは調査のために雇用された地元の調査員によって運営された。テストのあいだ、子供たちをふだん教えている教員やバルサキは教室の中に入ることを許されなかった。プログラムが落第率に影響したかもしれないので、クラスに在籍していたすべての子供たちが第1回調査の対象となった。落第した子供たちも含まれ、追跡調査の対象となった。データは子供たちの出席とプログラムへの参加についても集められた。プログラムがどのように進められたのかということも、バルサキの性格、学校へのバルサキの配置人数、バルサキへの子供たちの配置人数、プログラムにかかる費用についても同様にデータが集められた。

 

5 結果・・・集中的な補習授業は安い費用で、基本的な学力を改善する

 

5-1 最初の学習レベルはとても低かった

 

第一回テストの点数から判明したことは、市内のどんな場所だろうと、学年が何年であろうと、補習組だろうと通常クラスだろうと、プログラムの最初の時点では、算数にしても、読む能力にしても子供たちの能力は低かった(表1参照)。例えば、プログラム2年目のスタート時点では、3年や4年の子供たちのうち一桁の足し算ができるのはたった65パーセントだった。さらに一桁の引き算ができるのはわずか52パーセントだった。

 

表1 最初の学習レベルは低かった

 

 科目  学習内容 理解している児童の割合 1年目の最初 理解している児童の割合 2年目の最初
  算数 10の位と1の位分割

34.6%

34.8%

一桁の足し算

68.0%

64.6%

二桁の足し算

40.8%

31.6%

一桁の引き算

59.5%

51.9%

割り算

18.2%

18.8%

 国語 読んで理解する

27.1%

24.3%

絵に単語一語書く

53.7%

単語を正しく挿入

39.5%

 

 

5-2 バルサキ・プログラムによりテストの点数は大幅に上昇した

 

学年末テストの点数によれば、ムンバイでもヴァドダラでも両方の町で、どの年でも、プログラムはテストの点数を全般的に上げた。表2参照)。一番収穫が大きかったのは算数であった。内容が難しいもののほうが、だいたいにおいて高い効果をあげた。

 

 

5-3 プログラムの影響を強く受けたのは、社会から取り残された子供たちのほうだった

 

プログラムの計画は、こうした社会から取り残された子供たちを助けるためだった。結果をみてみると、対象となったこの子供たちがまさにプログラムから一番恩恵をこうむった集団となった。表3によれば、下位1/3の生徒グループでは、基本的な学習内容を理解した者はほぼ8パーセント増加した。しかしながら上位1/3の生徒グループにおいては、基本的な学習事項を理解した者は4パーセントしか上昇していなかった。この結果から、成績向上の原因となるものは、クラスの人数を減らすことよりも、社会から取り残された子供たちの必要にあうレッスンを提供し、基本的な学力に焦点をあてているバルサキ・カリキュラムであることがわかる。結果についてさらに詳細に論じるにあたって、年度当初のクラス下位1/3の点数に注意をむけてみよう。クラスの下位1/3のグループこそがバルサキに割り当てたい集団であり、プログラムの対象となる集団なのである。

 

表2 バルサキ・プログラムにより学習レベルが大幅に上がった

 

 科目  学習内容 理解している児童の割合 1年目の最初 理解している児童の割合 2年目の最初
  算数 10の位と1の位分割

6.0

7.1

一桁の足し算

3.9*

2.6*

二桁の足し算

6.6

7.0

一桁の引き算

6.2

6.2

割り算

5.7

11.1

 国語 *は統計的に見ると重要でない 読んで理解する

1.2*

3.2*

絵に単語一語書く

4.2*

単語を正しく挿入

4.4

        

表3 バルサキ・プログラムの対象となった生徒は学力が向上した

 

予備テストでのグループ

科目

バルサキプログラムのおかげで基礎学力テストに合格した子どもたちの割合

下位1/3

算数

9.5

言語

5.9

全般

7.7

真ん中の1/3

算数

8.1

言語

3.8

全般

6.0

上位1/3

算数

4.5

言語

3.5

全般

4.0

 

 

4は、ムンバイとヴァドダラ双方の町で実施されたプログラム2年目の年の第一回テストと第三回テストの結果である。バルサキ・プログラムを実施したクラス、実施しなかったクラス双方のにおける下位1/3グループにおいて、基本的な学力を身につけた子供たちの割合である。例えば、2年目のスタート時点では、二桁の足し算ができるのは5から6%の子供たちのみだった。しかしながら、その年の終わりには、バルサキ・プログラムを受けた子供たちの51パーセントが二桁の足し算をできるようになっていた。それに比べるとバルサキ・プログラムを受けなかった子供たちのうち、二桁の足し算ができるようになった者は39%だけだった。言い換えるなら、社会から取り残された子供たちのうち1/3以上の者が、バルサキのクラスでこうした学習内容を身につけたことになる。バルサキによる成績向上はまた、社会から取り残された子供たちに見られる1年かけての成績向上の1/3に等しい。別の例をとれば、年度当初、下位1/3において割り算ができるのは、2%から3%の子供だけだった。その年の終わりには、バルサキが教えるクラスのうち40パーセントの生徒が、わり算ができるようになった。バルサキが教えていないクラスを比較してみると、28パーセントしかわり算ができるようにならなかった。バルサキ・プログラムの結果は、通常の結果に加えて、さらにその年の通常クラスの生徒の成績より1/3高い。すべての学習内容を平均していくと、バルサキによる結果は通常より高く、さらに平均的な子供たちがその年に学ぶ内容よりおよそ1/4高い結果となる。子供たちは異なる学習内容を学んでいるので、内容によって子供たちの絶対数は異なってくる。それでも、ほとんどの学習内容でかなりの成果があがっている。

回帰を用いながら同じような分析を繰り返して子供たちの特長にあわせていくと、バルサキによる点数の上昇は通常より大きい。しかし一般的な結果はとても似通ったものである(Banaerjee et al.,2005年)。

表4 クラスにおける下位1/3の生徒達の学習結果 

バルサキ・プログラム2年目のクラスと通常のクラス

 

  第一回のテストで学力があった子ども達の割合 学年末テストで学力があった子ども達の割合 年間で子ども達が身につけた学力の増加 結果
  バルサキ有り バルサキ無し 違い% バルサキ有り バルサキ無し 違い% バルサキ有り バルサキ無し 違い% バルサキ影響
一桁の引き算

20

18.7

1.2

61.3

50.8

10.5

41.3

32.0

9.3

11.1

二桁の足し算

5.7

5.0

0.7

51.4

38.6

12.8

45.7

33.5

12.1

14.6

二桁の引き算

2.1

2.2

0.0

36.6

27.5

9.1

34.5

25.4

9.1

11.0

かけ算

11.7

11.3

0.4

54.9

46.6

8.3

43.2

35.3

7.9

9.5

単語問題

1.2

0.7

0.6

25.2

16.4

8.8

24.0

15.7

8.2

9.9

三桁の足し算

2.0

1.8

0.2

29.1

19.1

10.0

27.1

17.4

9.8

11.7

わり算

2.7

2.1

0.6

40.3

28.4

11.9

37.6

26.3

11.3

13.6

スペル

41.7

41.7

0.0

74.9

72.0

2.9

33.2

30.3

2.9

3.5

読解

6.5

5.2

1.3

28.2

24.8

3.4

21.7

19.6

2.1

2.6

 

 

5-4 費用にたいして効果の高いプログラム

 

発展途上国で成功した他の教育プログラムと比べてみると、バルサキ・プログラムは費用にたいする効果が高かった。表5の結果が示しているのは、他の教育プログラムから無作為に抽出した評価であり、そうしたプログラムが目指しているのは発展途上国の貧しい学校でテストの点数を上昇させることである。類似性を見つけるために、テストの点数は共通の尺度、「標準偏差」に変えられている。その結果から通常授業の子供たちより、補習授業の子供たちのほうがどのくらい進んでいるのかがわかる。例えば標準偏差が2上昇するということは、平均的な順位からクラスで上位5パーセント以内に入るということになるだろう。ここで示されているプログラムはすべて費用にたいして効果が高いものであるけれど、とりわけバルサキ・プログラムはすべてのプログラムのなかで、正確に効果を証明することが可能なものであり、もっとも費用がかからないプログラムである。比較するために、無作為抽出したプロジェクトSTAR(アメリカにおけるクラスサイズを小さくする有名な試み)の結果もいれてある。プロジェクトSTARはとても成功したと考えられている(クルーガーとホワイトモア2001年、モステラー1995年、Pate-Bain et al1999年)。2002年の物価と為替レートを用いたので、アメリカのプログラムは、同じような結果がでているバルサキ・プログラムより240倍以上費用がかかっている。アメリカとは異なる生活コストを調整してみても、プロジェクトATARで同じような結果を得るにはバルサキ・プログラムより40倍以上の費用がかかる(注1参照)。

 

1 2005年世界発達指標によれば、2002年公的交換レート(INR/USD)は48.61だった。購買力の平価換算計数は8.8だった。(世界銀行グループ、2005年)

表5 地域共同体からチューターを雇うことはコストがかからないわりに効果が高い

 

プログラム 内容・年・場所 子供一人一年あたりUSドル換算費用 子供一人一年あたり2002PPP換算費用 テストの点数の増加 標準偏差
バルサキ チューターによる補習インド都心 2001-2002 2.25 12.2 0.27
プラサムCAL コンピュータ学習 インド都心2001-2003 3.53 19.1 0.54
女子対象奨学金 中学・小学高学年の女子への奨学金 ケニア都心1997-1999 3.41 8.8 0.17
教師の動機 代用教員の表彰インド都心2003-2004 3.53 10.1 0.10
外部からの観察 教員の無断欠勤を減らすインド都心2003-2004 3.58 18.8 0.17
テネシー・プロジェクトSTAR 少人数学級にして教員が助けるアメリカ1985-1989 370.006 370.0 0.21 
 

 

6 政策への教訓

 

学校全体の質をあげるには、社会から取り残された子供たちの学力が定着するような特別な政策で補わなければいけない。

 

社会から取り残された弱い立場におかれた生徒たちは、途上国の現行の学校システムにおいて迷子になりがちである。これまで論じてきたような今までの研究から、最も貧しい生徒の必要をみたすにはカリキュラムがしばしば不適切であるということがわかってきた。このせいで教育の質全体を改善しても、じゅうぶん備えることのできる生徒たちほど恩恵を受けることが出来ない。

 

一番弱い生徒たちを徹底的に訓練して、通常の授業に追いつくのに必要となる基本的な学力をつけることで、そうした子供たちも再び授業についていくことができる。インド都心部で、地域共同体から補習授業のチューターを雇うことは、コストがかからないわりに効果があり、結果をもたらしてくれる手段のようにみえる。(チューター適任者がどこまで有用かということは、状況次第で変化していくかもしれない)バルサキと一緒に勉強した子供たちは、2年目に標準偏差で0.27テストの点数をあげた(表5参照)。例えば、2年目、8%から13%以上の子供たちが簡単な単語の問題、かけ算、わり算、一桁と二桁の引き算、2桁と3桁の足し算ができるようになった(表4参照)。バルサキが教えたクラスのほうが、そうでないないクラスより平均して1/4も多く子供たちが学力テストに合格した。(すなわちバルサキが教えていないクラスで10パーセントの生徒が合格したなら、バルサキが教えているクラスでは12.5パーセントが合格した)。学習内容は広範囲にわたるが、バルサキに教えてもらうことで更に成績があがり、その上昇幅は、バルサキには年間をとおして教えてもらっていない通常のクラスの1.4倍だった(一方でバルサキにかかる費用は、ふつう学校でもう一年学ぶ費用を分母としたら、とても小さな分子となる)。バルサキ・プログラムはさらに継続して続き、二つの都市で同じような結果をだした。かかった費用は安く、プラサムがデモンストレーションしたように、大規模に実施することができた。安価に大規模実施が可能だという点と表に示した結果から、インドでバルサキ・プログラムを取り上げようとする動きがあり、似たような取り組みについて検証しようとする他の国での試みを後押ししている。

 

バルサキ・プログラムを拡大しながらも、プラサムは同じ方法論を用いてきた。すなわち地元の共同体の人々を訓練することで、落ちこぼれた子供たちを強力に支援するというものだ。そうして新しい、徹底した識字運動であるリード・インディアを地方で実施した。プラサムはまたビハールなどの州でも、同じ方法論を用いて準教師を訓練した。こうした補習授業や基本的な学力をつけるための授業を実施したり、模倣したりすれば、学校で学ぶのに必要となる基本的な学力をつける機会をすべての子供たちに与えることになるだろう。もし一番不利な状況におかれた子供たちが教育の可能性を利用して貧困に打ち勝つことができるというなら、教育制度はそうした子供たちの必要性に焦点をあてて、子供たちが成功するような力をつける義務がある。(さりはま訳・リバーチェック)

 

 ちなみに日本のデータはこちらから。

平成24年度 全国学力・学習状況調査 調査結果について:国立教育政策研究所 National Institute for Educational Policy Research.

 

 

 

 

さりはま の紹介

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