丸山健二『言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から』より「奴隷にならない」を読む
本書は後半の方に、丸山先生らしい、辛口の本音が出ているのかもしれない。「酒を飲むのは人間だけ」の章にしても、その次の「奴隷にならない」にしても、そうだ。
もしかしたら読者の反発を避けるために、本音部分は後半になったのだろうか……
本書は北アルプスの自然やご家族と暮らす心境を綴られた最初の部分から、後半の辛口部分までグラデーションのような色彩のエッセイ集である。
理想的に思える政治体制であっても、国家とは結局、支配層のために存在するのです。このことは、現実中の現実であり、真理中の真理であって、体裁の違いこそあれ、今の時代も根本は中世の時代となんら変わりはありません。
特定少数の支配層は、不特定多数の人々に国民の一員であるという偽りの自覚を持たせながら、実に巧妙な手口で奴隷化を進めてきました。これが近代社会の実態です。
(丸山健二『言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から』240ページ)
今の日本社会を考えるとき、近代の用語を使うよりも、江戸時代の言葉をあてはめて考えた方が、何だかしっくりくることがある。
「政府」じゃなくて「幕府」、「税金」じゃなくて「年貢」……そんな言葉で自分を見つめた方が、幻想が崩れて現実を直視できる気がする。上記引用文にふとそう思った。