丸山健二『言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から』より「苦悩と情熱にあふれかえる現世」を読む
以下引用文。
蝶を呼び寄せる花ブッドレアを眺めているうちに、丸山先生の脳裏にはブッドレアがなくても小さな生き物たちが集まってきた昔が甦る……。
このエッセイ集は、いやエッセイだからと言うべきか、全体のトーンが明るい。
でもその明るさの下には、こんな思いが潜んでいるのか……こうした思いを抱え、丸山先生は庭仕事をされて、毎日コツコツ執筆されているのか……とブッドレアのにぎやかな花も哀しく見えてきた。
生きるとは、本当にしんどいことである。
時間の恐ろしさには凄まじいものがあるのです。
時は流れ、さらに流れて、その間、世界も私たちもさまざまなものを喪失してゆきました。だからといって嘆くつもりはありません。
ただ、「時間も世代も好ましい方向には進んではいないんだな」という切ない思いがどんどん募ってゆくばかりです。
悟ったような言い方を気取れば、人は皆こうした観想に至って生涯の幕を閉じてゆく悲劇的な生き物なのでしょう。
(丸山健二『言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から』54ページ)