丸山健二『言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から』より「生きたまま現世を超える?」を読む
ハナバチの羽音を聴きながら、花殻を摘み取るときの至福野原因は何だろう……と丸山先生は以下のように思いを巡らす。それでも答えはでない。
花殻は摘んだ方がよいと分かっていながら、大急ぎで花殻から目をそらして逃げてしまう私には、こういう至福があるのか……と心底びっくりした。
今度、私も花殻摘みにトライしてみようか?
でも今日、食べて美味しい文旦の収穫すらウンザリして嫌になった。食べられない花殻摘みに、私が至福を感じるのは難しい気がする。
掛け替えのないその気分をどう表現していいものやら、物書きのくせに、これがなかなか難しいのです。
癒しを帯びた安らぎでしょうか。
それとも、地上にも天国が存在するという確信でしょうか。
はたまた、知的な困惑に陥り易い職種にありがちな必然的な欲求としての、立場における束の間の亡失なのでしょうか?
(丸山健二『言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から』63ページ)