丸山健二『千日の瑠璃 終結5』より十二月四日「私は灯火だ」を読む
十二月四日は「私は灯火だ」で始まる。
「行き場を失った魂の波に弄ばれて 漫々たるうたかた湖をさまよう 朽ちかけたボート その舳先に掲げられた灯火」が語る。
以下引用文。丸山先生が語る風景は、ときにとても幻想味を帯びることがある。その幻想世界が、どこか他の幻想文学の作家とは違うのはなぜだろうと思う。
丸山先生は、初期の作品はとても現実直視の世界からスタートされた。
丸山先生の場合、現実をとことん突き詰めて眺め書いていくうちに、その向こうに存在するパラレルワールドが見えてきたのだろうか。
大町の自然を冷静に眺めることによって見えてくる、丸山先生ならではのもう一つの幻想世界、その成立を可能にしている筆力が、独自の魅力なのかもしれない。
今宵の乗船客である精霊たちを慰めてやり、
死者の未練をすっぱりと断ち切って
物質としての存在を諦めさせてやることこそが
わが本来の務めであり、
そんな私は
新顔の死者たちに
うたかた湖の北の岸辺に群生している
極めて短命な植物の躯を見せ、
森や林の奥で
今まさに無惨な死を遂げた
禽獣の姿を見せてやる。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結5』119ページ)