丸山健二『千日の瑠璃 終結5』より二月八日「私は日差しだ」を読む
体も、そして頭も衰弱している老女、老女が愛するサクラソウを暖める日差しが何とも優しく感じられる。
老女の老いとは対照的に、サクラソウの生命力の何と頼もしいことか。毎日、庭で植物と向かい合っている丸山先生ならではの見え方かもしれない。
すると彼女は
もはや心火を燃やすことがない皺だらけの魂を
安心して私に委ね、
鉢植えのサクラソウは
私に向かって
可憐にしてしぶとい命を
精いっぱい伸ばしてきた。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結5』381ページ)
以下引用文。世一の足音も、老女の体の動きも、サクラソウの動きまで仲良く調和した有り様で心に浮かんできて、思わず幸せになる終わり方。
私とほぼ同格の価値を
その病児にも認めている老女は
近づいてくる独特の足音に惹かれて
窓辺へぐっと身を乗り出し、
なんと
サクラソウの花までがそれに倣った。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結5』385ページ)
