丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より二月十八日「私はつららだ」を読む
普段つららを見かけることのない土地に住んでいる私にすれば、つららは冬の陽にキラキラ輝くもので清純なイメージがある。
だが雪国住まいの丸山先生にすれば、つららは何とも凶暴で、おそろしい存在のようだ。まず「危険千万な 恐怖のつららだ」と書き出して私のイメージを覆す。
管理人の下で働く男は
鉤爪の付いた義手をぶんぶん振り回して
私を次々に叩き落とし、
それが済むと今度は
指の先まで血が通っている本物の手を使って
私のかけらを拾い集める。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』22ページ)
この男は集めたつららのかけらを湯呑み茶碗に入れ、ウイスキーを注いで飲み干す。何とも荒々しいけれど、忘れられない場面である。
そして酔っ払うと「猫だけではなく 人間の体にも穴を穿つだけの威力を秘めた私」の下に「心臓を向けて 大の字に寝そべる」
そんな男につられて、思わず先をどんどん読んでしまう。
以下引用文。寝そべる男につららは思う。
厳しい自然を見つめながら暮らしている丸山先生だから浮かんでくる思いなのではないだろうか。
私のことをとことん甘く見ているか
さもなければ
態度とは裏腹で
生者を辞めたがっているかの
いずれかだろう。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』25ページ)
