丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より二月十四日「私は民謡だ」を読む
老いた芸者が久しぶりに歌うまほろ町の民謡。もう半ば忘れてしまった歌詞を、自身の体験と混ぜながら歌う。
「娘は今」「彼女は今」で繰り返しながらの語りは、音楽のようでもあり、芸者の若い頃のようでもあり、あるいは民謡の中の娘のようでもあり……繰り返しが哀切を生んでいるように思った。
音楽が好きな丸山先生らしい書き方だと思う。どんな曲をイメージされて書いたのだろうか。
私の全体を構成する
しとやかな挙措の麗しい娘と
彼女が辿る数奇な運命を、
濃厚な闇や
夜の向こうに横たわって滔々と流れるあやまち川へ
そっと流した。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』7ページ)
そして娘は今
山野に早春の気が漲る朝まだき
静かに実家を離れ、
それから数年後に
霊魂のみの里帰りを果たした。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』9ページ)
