丸山健二『千日の瑠璃 終結5』より二月五日「私は火影だ」を読む
新しい障子に映る火影、外は大粒の雪。
こんな美しい風景ももはや小説や映画の中だけであり、失われてしまっていることにハッとしながら読む。
張り替えて間もない障子に
くっきりと映し出されて
少年世一をさかんにいざなう
盲目の少女の美しい火影だ。
無風状態のせいで真っすぐに落下する大粒の雪を浴びて立つ世一は
もうかれこれ一時間近くも私に見とれ、
(丸山健二『千日の瑠璃 終結5』370ページ)
最後、世一の口笛への少女と犬の小さな反応が、この雪の火影の静けさをさらに強く印象づける気がする。
そうは思ったものの
彼女と犬の耳はしっかり反応している。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結5』373ページ)
静けさが恋しくなってくる文章である。でも、こんな静かなときも、場所も見つけがたいことに気がつき悲しくなる。
