丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より二月十六日「私は雪だるまだ」を読む
丸山先生が大町の街角で見かけた雪だるまなのだろうか。
その姿に色々思いを寄せ、さらに『千日の瑠璃』の中でも一番弱く、同時に一番強い世一と盲目の少女の二人の思いを重ねている。
子供が戯れにこしらえただろう雪だるま。どこにでもあるその姿から、人の生の切なさ、美しさを読み取って、こんなふうに語ることができるのだなあと、短いけれど濃い文に触れたように思いつつ読む。
黒っぽい枝で作られた表情は
本当のところは自分でもよくわからないのだが
その日その日の生活に追われている者が
天を仰いで長嘆しているように見え、
臨月を迎えた女がまんじりともしないで
不安の一夜を明かそうとしているようにも
見えているのかもしれない。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』14ページ)
葉の付いた松の枝を私の胴体の左右に突き刺し
それを腕と見なし、
いっぱいに開かれた両腕はさしずめ
意に適わぬことが多過ぎて
ただもう懊悩の日々を送るしかなく
他者を顧みる余裕もない
心の貧しい人々を
そっと抱き締めるためだ。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』15ページ)
しまいには私にひしと抱きついた少女は
そうやって愛唱歌を低唱し、
やがて
感極まって泣き出し、
すると
笑う少年の目にも
うっすら涙が浮かんできている。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』17ページ)
