さりはま書房徒然日誌2025年4月3日(木)

丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より二月十六日「私は雪だるまだ」を読む

丸山先生が大町の街角で見かけた雪だるまなのだろうか。
その姿に色々思いを寄せ、さらに『千日の瑠璃』の中でも一番弱く、同時に一番強い世一と盲目の少女の二人の思いを重ねている。
子供が戯れにこしらえただろう雪だるま。どこにでもあるその姿から、人の生の切なさ、美しさを読み取って、こんなふうに語ることができるのだなあと、短いけれど濃い文に触れたように思いつつ読む。

黒っぽい枝で作られた表情は

本当のところは自分でもよくわからないのだが
   その日その日の生活に追われている者が
      天を仰いで長嘆しているように見え、

臨月を迎えた女がまんじりともしないで
   不安の一夜を明かそうとしているようにも
      見えているのかもしれない。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』14ページ)

葉の付いた松の枝を私の胴体の左右に突き刺し
   それを腕と見なし、

いっぱいに開かれた両腕はさしずめ
   意に適わぬことが多過ぎて
      ただもう懊悩の日々を送るしかなく
         他者を顧みる余裕もない
            心の貧しい人々を
               そっと抱き締めるためだ。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』15ページ)

しまいには私にひしと抱きついた少女は
   そうやって愛唱歌を低唱し、

やがて
   感極まって泣き出し、

すると
   笑う少年の目にも
      うっすら涙が浮かんできている。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』17ページ)

さりはま の紹介

更新情報はツィッター sarihama_xx で。
カテゴリー: さりはま書房徒然日誌 タグ: , パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Time limit is exhausted. Please reload the CAPTCHA.