丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より四月十七日「私は雑念だ」を読む
うたかた湖のボートに乗る若い修行僧の「雑念」が語る。
修行僧の耳に届く世一の口笛。「青々としたさえずり」という言葉に、山上湖の風景が浮かんでくる。
「あっちへ行け」という修行僧の言葉が、木魂となって帰ってくる様子を「僧侶自身の肩をぴしゃりと叩くことになる」とどこかユーモラスな文で終わりにしている結末も心に残る。
口笛による青々としたさえずりを送りこみながら
さかんに私を嗾け、
すると
僧侶の苛立ちがとうとう限界に達して
「あっちへ行け!」と怒鳴ってしまう。
その罵声は
残念ながら相手の耳にはまったく届かず、
空しく周囲の山々に撥ね返ったあと
最終的には
僧侶自身の肩をぴしゃりと叩くことになる。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』257頁)