サキ「耐えがたきバシントン」 Ⅴ章50回

「無事に結婚をして、新婚旅行に出かけて楽しんでから、妻を政治上の女主人として試したところで、いつかは議会に席がなくなり、ひとりで戻ってきて一緒に狩りをすることになるでしょうから。そうじゃないかしら。昔のままというわけにはいかないでしょうけど。でも、今風の政治婚について延々と続く記事を読むのが楽しみだわ」

「ずいぶん先のことを考えすぎている」ヨールは笑った。「あの娘さんも、君と同じ見方をするようになって、僕と将来を共有すれば不幸になる可能性があると考えるようになるかもしれない。そうなると僕は、政治家としては困窮のうちに独身時代を過ごすことになり、そんな自分に我慢しなければいけない。とにかく今というときは、私たちと共にある。今夜、ケトナーの店で夕食にしよう、いいね」

「どちらかといえば」モリーはいった。「私についていえば、のどにつまるようなご馳走になりそうだけれど。ヨール夫人の健康を祈って乾杯しないといけないのね。ところでお相手がどなたなのか言わないのもあなたらしいけど、それがどなたなのか聞かないのも私らしい。さあ、聞き分けのいい犬のようになりなさい。急いで立ち去って、私をひとりにして。まだ、あなたにはさようならは言わないけれど、雉の飼育場には別れを告げるつもりよ。面白くて、楽しい話をしたわねえ。あなたと私でこの席に腰かけて、ねえ、そうでしょ。わかっているけど、私が知る限り、それもこれでおしまいになるのね。今夜、八時ね。できるだけ遅れないように」

相手が引きあげていく姿を、彼女は涙にかすむ目で見つめた。彼は陽気で、外見もいい友達だった。楽しい時を過ごしてきた。慣れ親しんだ待ち合わせの場を見わたしたとき、まつ毛にかかる涙のせいでいっそう目がうるんだ。此処でしょっちゅう密会してきたのだ。初めて来たとき、彼はまだ学生で、彼女もその頃は十代であった。しばらくのあいだ、彼女は悲しみに隷属している自分を感じた。

 だが、しばらくすると飛びゆく二十四夜を追い求め、街に暮らす者のみに見受けられる、驚くべき気力を発揮した。彼女は立ち去ると、世界を旅する海軍の崇拝者と一緒に、海軍のクラブでお茶をした。かくのごとく多元論とは、慈悲深い麻薬なのである。

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