「人里離れたところに、なんて素敵な小さな家を手に入れたのかしら」感情をこめて、彼女は反射的に言った。それから周囲をするどくみわたしてから、自分がほんとうのことを言ったのだと理解した。確かに素敵な場所だった。農場の家は強烈なくらいに英国風であり、ノルマンディ以外ではめったに見かけないようなものだった。干し草置き場や畑、離れ家、馬洗い池や果樹園が広がる向こうには、人里離れた農家の庭にふさわしい雰囲気がたちこめ、更にここでは人も、動物も、鳥も、とても早起きをするものだから、他の世界からきた者は今までその姿をとらえたことはないし、これからもとらえることはないだろうとでも言うような、夢のなかにいるような雰囲気がただよっていた。
エレーヌが馬から下りると、大きくて寂しい納屋横の南京錠のところまで、ケリウェイが雌馬を連れていった。道のむこうでは、サーカスの一行が通り過ぎていくのが見えた。不格好なバンと大股に歩いていく動物たちを見ていると、沈黙している広大な砂漠に、にぎやかな音やら光景やら匂いやらがあらわれ、ナフサの炎や広告掲示板、ふみつけられたオレンジの皮のようなものを思い出したが、それは終わることなく続いていく町につながる風景だった。