サキの長編小説「耐えがたきバシントン」 Ⅺ章118回

この考えにエレーヌはなぐさめられたが、それでもコーマスから軽蔑の視線をむけられ、困ったときに金を引き出せる都合のいい存在だとみられたことで生じた立腹を抹消するには不十分だった。前途洋々たる自分の将来を入念に思い描くことに幾ばくかの満足を覚えながら、いろいろ出来事の多い日ではあったが、金を借りたいという申し出にたいする使いの者を早めにだした。だが、悔いの念にとりつかれた。そして公正な立場から思いだしたのが、敗北した求婚者の耳に知らせがとびこまないうちに、できるだけ親しみをこめて手紙をかいて知らせを伝えようということだった。かれらが多少なりとも諍いの言葉で別れたということは事実であった。だが双方ともに、別れという形で終わりがくるだろうとも、仲違いをしたまま永遠につづいていくとも予感していなかった。今でもコーマスはなかば許されたものだと考えているだろう。それなのに事実を悟らせるのは、やや酷だというものだろう。しかしながら手紙は、簡単には書けないものであることが判明した。手紙を書くことが難しいということが露呈しただけではなく、説明や別れの文言を書くよりも楽しいことをしていたいという欲望のせめぎあいに苦しんだせいである。

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