サキの長編小説 「耐えがたきバシントン」 Ⅻ章131回

「もちろん椅子の前で、正確には椅子のうえでと言うべきかもしれないけど、話をするときには気をつけているでしょうけど」マーラはしゃべり続けたが、やがて彼女は無防備にもひとりで腰かけている知人に気がついたので、フランチェスカは心から安堵した。その知人が約束してくれるものは、今いっしょにいるのに足早に移動してしまう連れよりも、我慢強く耳をかたむけてくれる聴衆としての役割だった。フランチェスカは解放されると、ブルーストリートにある自分の応接間にもどった。自分が当惑したり、不安になったりしている事柄について、明かりを投げかけてくれるはずの訪問客が到着する旨を告げ、忍耐強くその到着を待ち受けた。やがてジョージ・サン・ミッシェルが、悪い知らせを予言するために到着した。それにもかかわらず彼女は心のこもった歓迎をした。

 

「さてミス・ド・フレイとコートニー・ヨールについてだが、私の聞いた話はそう間違っていないと思う」彼は、腰かける前にするどく言い放った。フランチェスカは、なにも知らない不確かな時期をつむぐのはやめることにした。「おおやけに発表されたよ」彼はつづけた。「明日、モーニングポストにのるだろう。今朝、ディール大佐から聞いた話だが、大佐はヨールから直接きいたそうだ。ああ、砂糖はひとついれて。私は上流の人間ではないものだから」彼は紅茶にいれる砂糖について、少なくとも30年にわたって、同じような意見をつきることなく繰り返してきた。砂糖に関していえば、上流階級の人間はあきらかに変わってきていないということだ。「なんでも聞いたところでは」彼は急いで話をつづけた。「国会のバルコニーで、彼は結婚を申し込んだそうだよ。そのとき採決を知らせる鐘がなったから、返事をもらうだけの時間もないまま、急いで戻ることになった。そこで戻る彼にむかって、彼女は簡潔にいったそうだ。『承諾しました』」サン・ミッシェルは語りの途中で息をつくと、わかると言いたげにかすかに笑ってみせた。

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