アーサー・モリスン倫敦貧民窟物語「ジェイゴウの子ども」13章83回

やがて一団がアーチの下の道にあらわれ、人々のほうにむかって突き進み、すぐ近くにまでやってきた。コイン投げを邪魔されて、一ペニー銅貨をポケットにしまいこんだ者もいたが、他の者たちはコイン投げをせわしなく続け、コインをとばしていくあいだにちらりと見るだけだった。ジョシュ・ペローの短髪も、むきだしになった肩も、一団のなかで人目をひいた。その一団がくると、他の者たちもコッコー・ホーンウェルの戸口から動きだした。その一団の中央には、ビリー・ラリィの、血色よく輝く、毛むくじゃらの長身があった。

「相手もコートにきたよ、かあさん」ディッキーは教えると、いっそう早くつま先を動かしては壁をくずした。

 偉いモブの旦那たちがコートの中央まできた。ふたつの集団から何人かでてきて広がると、群衆を押し返した。それでも、まだ半ダースくらいの二人組の者たちは、壁際の離れたところでコイン投げをひときわ早い速度で繰り返していたが、群衆がおしよせてくると四方に散っていった。

 今や、いびつな形の空き地がひろがり、そこは丸石や家のがらくたが雨ざらしにされた、直径五、六ヤードの空き地で、ジェイゴウ・コートの中央に位置していた。その空き地を囲んでいる群衆は大声をあげ、立錐の余地もない程つめかけ、後ろの方にいる人たちはブロックの上に立ったり、塀にぶら下がったりしていた。どの窓からも鈴なりになった人々が顔をだしていた。そのなかには女たちもいて、荒々しく、ときに陽気な声を響かせていた。二つの集団は人ごみのなかで混ざり合いながらも、空き地で相対時し、その中央にはビリー・ラリィとジョシュ・ペローが、介添え役をしたがえて立っていた。

「さてと、もう始めていいか?」偉いモブの旦那のひとりが大声でたずね、仲間を見わたした。「大きい方に三対一で賭けよう。三対一だ。それから、ラリィには四賭けよう。四対一を賭けよう」

 だが仲間は頭をふった。そして、もう少し待った。ラリィとペローがすすみでた。コイン投げをしていた最後の連中も銅貨を片づけると、塀にぶらさがった。

「決闘がはじまるよ、かあさん」ディッキーはさけび声をあげると、真っ青になりながら見つめ、肘も、足もひっきりなしに動かしているものだから、窓の外にとびだしていきそうだった。そこにいる母が途切れ途切れにもらしているものは、めそめそとした啜り泣きであったが、ディッキーの耳には聞こえてこなかった。

Then a close group appeared at the archway, and pushed into the crowd, which made way at its touch, the disturbed tossers pocketing their coppers, but the others busily persisting, with no more than a glance aside between the spins. Josh Perrott’s cropped head and bare shoulders marked the centre of the group, and as it came, another group moved out from Cocko Harnwell’s doorstep, with Billy Leary’s tall bulk shining pink and hairy in its midst.

”E’s in the court, mother,’ called Dicky, scraping faster with his toes.

The High Mobsmen moved up toward the middle of the court, and some from the two groups spread and pushed back the crowd. Still half a dozen couples, remote by the walls, tossed and tossed faster than ever, moving this way and that as the crowd pressed.

Now there was an irregular space of bare cobble stones and house refuse, five or six yards across, in the middle of Jago Court, and all round it the shouting crowd was packed tight, those at the back standing on sills and hanging to fences. Every window was a clump of heads, and women yelled savagely or cheerily down and across. The two groups were merged in the press at each side of the space, Billy Leary and Josh Perrott in front of each, with his seconds.

‘Naa then, any more ‘fore they begin?’ bawled a High Mobsman, turning about among his fellows. ‘Three to one on the big ‘un—three to one! ‘Ere, I’ll give fours—four to one on Leary! Fourer one! Fourer one!’

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