丸山健二『千日の瑠璃 終結4』より十月十六日「私は少数意見だ」を読む
十月十六日は「私は少数意見だ」で始まる。「まほろ町の議会において少しも尊重されず 相手にもされないで あとはもういじけるしかない 他勢に無勢もいいところ」の、裏社会の人間の権利を擁護しようとする少数意見が語る。
丸山文学の魅力に、少数意見の立場、見方をよく行き届いた、愛情深い筆致で書いている点があると思う。
以下引用文。少数意見をねじ伏せようとする議員が「自分たちの体にも良い細菌だけが巣くっているわけではなく 悪い菌もうじゃうじゃいて そのバランスが命を保っている」と語る。
反対派は「あの菌は 数が少なくても命取りになりかねぬ最悪の菌ではないか」と反論する。
そのときある声が響いてくる。自分たちが正しい、強いと思い、少数意見を菌扱いする心の思い上がりを静かに語ってくるような場面。
するとそのとき
「何もおまえらが良い菌とは限るまい」という
そんな声が議場に飛びこんできて、
痛いところを突かれた一同は
束の間怯んで沈黙し、
ややあって気を取り直し
きっとなっていっせいにそっちを見やり、
ところが
窓の向こうにいる人間は
重い病を背負って歩きつづける
健気な少年ただひとり。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』325ページ)