さりはま書房徒然日誌2024年11月16日(土)

丸山健二『千日の瑠璃 終結4』より十月十八日「私はルアーだ」を読む

十月八日は「私はルアーだ」で始まる。まほろ町に駆け落ちしてきた青年が悪事に手を染め、その代わり豊かになって、うたかた湖で釣りを楽しむひとときが描かれている。
以下引用文。この何も考えていないように思われる青年の、なんとも頼りない無軌道さ。釣りに不安、遣る瀬無さを紛らわす姿。そうした心がルアーさながらまやかしの派手な色となって、眼前に漂って見えてきそうな気がする。

竿がぐっとしなって
   私がびゅっと飛び出して行くたびに
      彼の未来は
         さほどの根拠もなく
            湖面のように輝く。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』331ページ)

裕福の味の片鱗を知った彼は
   タバコ銭にも困っていた
      ちょっと前の自分を
         私の先に引っかけて湖底へ沈め、

それと同じようにして
   駆け落ちを決意した際の情熱やら
      貧苦に耐える力やら
         異郷で暮らす侘しさやらを
            山上湖のあちこちに投げ捨てる。


(丸山健二『千日の瑠璃 終結4』333ページ)

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