丸山健二『言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から』より「この世のいっさいは幻想」を読む
丸山先生の庭仕事は冬の間もお休みにはならないらしい。「落下した枯れ枝を拾い集め」、細かく細断して落ち葉と混ぜて土に還して肥料にする様子が書かれている。
枯れ枝を同じように、かつて飼っていた大型犬たちも寿命が尽きたとき、先生の手で庭の一画に葬られ、やがてそこに美しいバラが咲く。
以下引用文。生と死が隣り合わせている……緊張感のある感覚が、大町の庭を見つめ養われ、丸山先生の小説に根づいているのだと思う。
やがて理想的な養分と化したかれらは、オールドローズやワイルドローズの花を立派に咲かせて、まだ死んでいない人間の目を楽しませたものです。そしてちょっと切ないその感動は、共に過ごしたその時間へといざなってくれました。
丸山健二『言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から』15ページ
枯れ枝を小脇に抱えてしばらくその場に佇んでいるうちに、生と死が延々とくり返されることで成り立つこの世に、なんとも遣る瀬ない愛おしさを覚えるのはどうしてなのでしょう。
「この世のいっさいは幻想なんですよ」と朽ち木が口を揃えて言いました。
丸山健二『言の葉便り 花便り 北アルプス山麓から』15ページ16ページ