丸山健二『千日の瑠璃 終結6』より二月二十八日「私は手袋だ」を読む
世一の姉が恋人の男のためにせっせと編む手袋が語る。
以下引用文。姉の一途な、と言うか恋に盲目状態の心が描かれているなあと思う。
一方、私が手製本とか物を作るのは自分のため。自分の時間を費やしてせっかくつくりあげた品、人にあげるなんてとんでもない!とケチな心が働いてしまう。
自分がそうなら、他の人も同じなのでは……と思う私には、この娘の一途さが「こんな境地もあるのか!」と新鮮であった。
編み手は私のなかへ自分の手を差し入れて
大きさを確かめ、
その手でいきなり自分の顔を挟みつけ
そうすることによって
これから先のまばゆいばかりの数十年を
ぎゅっと抱き締める。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』65ページ)
そんな私が
大切に仕舞っておいた
しゃれたデザインの紙袋にきちんと納められ
誕生日の祝いの言葉が添えられたとき
女としての嘉悦の涙がきらめいた。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結6』65ページ)