お辰の笑いは極道の妻、ヤンキー女の笑いだった!
文楽の登場人物の行動は、あまりに突飛すぎて理解できないこともしばしば(…と言うほど観ていないが)。
釣船三婦内(つりぶねさぶうち)の段でのお辰の行動も理解できないもののひとつ。
三婦に「こなたの顔に色気がある」から、若い男を預けるわけにはいかないと言われたお辰、火鉢にかけてあった熱い鉄弓をとって顔におしあてる。「疵は痛みはしませかぬの」と訊かれると、お辰は袖で顔を覆いながら答える。
「なんのいな、わが手にしたこと、ホホ、ホホ、オホホホホホホ、オオ恥かし」
この笑いと「恥かし」という言葉が分からない、なぜなんだなろうと思いながら文楽を観ていた。
歌舞伎の方では、この笑いはなかった。「オオ恥かし」はあったような、なかったような…よく覚えていない(歌舞伎には、床本がないのです)。
でも国立劇場のサイトに仲野徹氏が書かれている「任侠物として観る夏祭浪花鑑」を読むうちに、この笑いが理解できたような気が少ししてきた。仲野氏の説明によれば
「お辰は極道の妻である。若い頃、『根性焼き』をするようなヤンキー女だったに違いない。性根の坐り方がちがうのだ。そうでないと、とっさにそんな行動はとらないだろう」
もしかして、このホホは、ヤンキー女が余裕でうかべる笑いなんだろうか?
「オオ恥かし」は、こんな痛みくらいでヤンキー女である自分がそりかえったことへの「恥かし」なんだろうか?と想像ができた。
歌舞伎の場合、あまりにヤンキー女色をだすと、役者さんのイメージダウンになるから、この凄味のきいた「ホホホ」はカットしたのかと勝手に考えている。