『貧乏』
著者: 幸田露伴
初出: 明治30年 (1997年)
青空文庫
二葉亭四迷が言文一致で「浮雲」を書いたのは、この作品に先だつこと10年の明治20年。
この作品も、幸田露伴の「言文一致で書いてみよう!」という意気込みがひしひしと伝わってくる。
冒頭の文は、貧乏でヤケになった男が、女房にこう呼びかける威勢のいい言葉で始まる。
「アア詰らねえ、こう何もかもぐりはまになった日にゃあ、おれほどのものでもどうもならねえッ。いめえましい、酒でも喫ってやれか。オイ、おとま、一升ばかり取って来な。コウㇳ、もう煮奴も悪くねえ時候だ、刷毛ついでに豆腐でもたんと買え、田圃の朝というつもりで堪忍をしておいてやらあ。ナンデエ、そんな面あすることはねえ、女ッ振が下がらあ」
なんとも生き生きとした夫、妻のやりとりで成立している作品である。
文語体の小説から360度転換、古典の知識も、漢籍の素養も、外国文学の知識もある作家たちが、こういう威勢のいい会話体で小説を書くことにトライした明治時代の文学…もっと読んでみたい。
意味の分からない言葉は多々あれど。
たとえば「ぐりはまになった」「刷毛ついで」とか。
会話文も変わるものである。
読了日:2017年8月5日