「方壺園」
作者:陳舜臣
初出:「小説中央公論」昭和37年五月号
陳舜臣全集第23巻
陳舜臣「炎に絵を」読書会で「方壺園」を強く勧めてくださる方がいたので読んでみた。
方壺園という細部まで想像するのが難しい建物、詩の好きな美人歌妓、書いた詩をぽいぽい錦嚢(どんなものだか想像できない)に投げ込んでいく詩人、「石人提灯」という初めて聞くような代物(これも想像できない)…というように想像できないような怪しい小道具にみちた世界で楽しかった。
トリック自体は、海外ミステリ読書会で同じようなものがあったような、陳舜臣もクリスティが好きだったのだろうかと思ったけれど、怪しい小道具に充ちていたらそれで充分楽しい。
塩商の屈折した心のもちようも理解しがたいものがある。想像できない、理解できない…という作品は楽しい。
「ところが方壺園のなかにいると、真上に四角い、切りとった空しか見えない。詩人は壺の底にいて、おしつけがましい塔や殿閣を見なくてすむ。深山にいると想像してもよく、身を渓水舟上の人に擬してもよかった」
実は、私の苫屋も、真上に四角い、切りとった空しか見えない建物である。だから、この忍び入る場面とかは、閉ざされた空間という安心感がひっくり返るようでドキドキして読んでしまった。いったい、どこでこういう建物を見たのだろうか。この空の描写は、実際に見ていないと書けないような気がする…と思いつつ頁をとじた。
読了日:2017年8月29日