「不連続殺人事件」
作者:坂口安吾
初出:昭和23年12月
ちくま文庫 坂口安吾全集11
来月末の読書会のために「不連続殺人事件」三読目になる、たぶん。
最初のうちは登場人物41人という余りの多さに辟易、登場人物を覚えるだけでも大変であった。
三読目にふと思ったのだが、安吾は主だった登場人物については具体的な人物を思いうかべながら書いていたのではないだろうか?簡潔だけれど人物をずばり表現する文を読んでいくうちに思い浮かぶ作家がちらほら…どうなんだろうか?
王仁は親しくしていた尾崎士郎。最初に殺してしまったのも、友人への親しみからなのでは?だが犯人のモデルへの感情はどうなんだろうか?
ちなみに坂口安吾の生没年は1906~1955、「不連続殺人事件」が書かれたのは1947年である。
(1)女流作家「宇津木秋子」は宇野千代では?
「秋子は非常に多情な女だ…秋子は本能の人形みたいな女で、抑制などのできなくなる痴呆的なところがある…肉惑派」10頁
(2)仏文学者「三宅木兵衛」は北原武夫(1907~1973)では?
「木兵衛という奴、理知聡明、学者然、乙にすまして、くだらぬ女に惚れてひきずり廻されて、唯々諾々というのだが、そのくせ嫉妬で胸が破れそうなことも云っている」10頁
(3)望月王仁は親しくしていた尾崎士郎(1898~1964)では?
「ご承知の通り望月王仁という奴は、粗暴、傲慢無礼、鼻持ちならぬ奴…天下の流行作家…野性的」9、10頁
(4)一馬は阿部知二(1903~1973)では?
「主知派の異才歌川一馬といえば文学少女には相当魅力のある中堅詩人…」13頁
「思想と生活のトンチンカンなこんな奴が外国文学の紹介なんかしている」61頁
(5)土居光一は藤田嗣治(1886~1968)では?
「彼の絵は最もユニックだと云われ、鬼才などともてはやされている…シュルレアリズム式の構図にもっぱら官能的なものを扇情一方のものをぬたくり燃えあがらせる、ちょっと見ると官能的と同時に何か陰鬱な詩情をたたえている趣きのあるのがミソで、然し実際は孤独とか虚無の厳しさは何一つない、彼はただ実に巧みな商人で、時代の嗜好に合わせて色をぬたくり、それらしい物をでっちあげる名人だ。だから絵自体の創作態度も商品的だが、又、売込みの名人で、終戦後は画家の苦境時代だが、彼は雑誌社や文士に渡りをつけて、挿絵の方で荒稼ぎ、相変わらず鬼才だのユニックな作風などと巧みにもてはやされている」12頁
「オレの肉体は君、ヨーロッパの娼婦でも卒倒するぐらい喜ぶんだからな」13頁
(6)あやかさんは藤田嗣治の25歳年下の妻、君代(1911~2009)では?
(7)劇作家「人見小六」にも、明石胡蝶にもモデルがいそうな気がしますが?
(8)加代子は安吾の恋人・矢田津世子(1907~1944)なのでは?名前も一字ちがい、様子もよく似ている。
安吾の「三十歳」によると「安吾は本郷菊坂の菊富士ホテルの三畳の部屋に津世子をさそって接吻するが、冷たい接吻であった。そして二人はこの日をかぎりに逢うことはなかった」
「加代子は僕の手を握りしめた。僕たちは接吻した。冷たい悲しい接吻だったが」23頁
「僕は危ういところで思いとどまった。からだにふれてはならぬ。たとえ死んでも」23頁は安吾の津世子への思いなのでは?
津世子の兄は、ふたりのあいだには何もなかったと否定。(世田谷文学館坂口安吾展図録58頁)
読了日:2017年10月30日