『夜釣』
作者:泉鏡花
初出:1911年(明治44年)
この作品も来月2日、鏡花怪談宴席で朗読される作品ということなので読んでみた。
岩次という釣り好きの男がいて、この男は釣りが上手であったが、なかでも鰻釣りが得意であった。
岩次の女房が、そんな夫のことを案じていた様子がさらりと描かれている。
が、女房は、まだ若いのに、後生願ひで、おそろしく岩さんの殺生を氣にして居た。
変事が起きる夜の描写を鏡花はこう記し、これから何か悪いことが起きるのではないだろうかという不安感を抱かせる。
霜月の末頃である。一晩、陽氣違ひの生暖い風が吹いて、むつと雲が蒸して、火鉢の傍だと半纏は脱ぎたいまでに、惡汗が浸むやうな、其暮方だつた。
その夜、岩次はなぜか家に帰らない。女房にも、読者にも何かが起きたのでは…と思わせるような描写が続く。
留守には風が吹募る。戸障子ががた〳〵鳴る。引窓がばた〳〵と暗い口を開く。空模樣は、その癖、星が晃々して、澄切つて居ながら、風は尋常ならず亂れて、時々むく〳〵と古綿を積んだ灰色の雲が湧上る。とぽつりと降る。降るかと思ふと、颯と又暴びた風で吹拂ふ。
翌日、女房が岩次を探してむなしく家に戻ると、子供たちが台所の桶に大きな鰻がいると言う。
手桶の中に輪をぬめらせた、鰻が一條、唯一條であつた、のろ〳〵と畝つて、尖つた頭を恁うあげて、女房の蒼白い顏を、凝と視た。
…という一文で読者に想像させて終わる不気味さ。
何か起きるのでは…というところでは、鏡花は言葉をたくさん使うけれど、何か起きたあとでははっきりとは書かない。この按配が何とも怖さを盛り上げるのだなあとと思う。
読了日:2017年11月13日