「招かれざる客」
作者:笹沢左保
初出:1960年
近いようで少し遠い時代風景を感じながら読む。
ボイラー室に石炭庫のあるビルも、急傾斜のようやく上り下りができる非常階段も、この物語の鍵となる組合側の機密書類をスパイする行為も、ある時代が濃厚に描かれているように思う。ただ、その時代を知らない者にとっては、情景を思い浮かべるのが難しくもあるが…。
郵政省に勤務していた作者ならでは暗号文も楽しい。その他、密室のトリックも次から次に出てきて楽しい。
(註)(事件)(特別上申書)の三つの部分から構成されているが。(註)では事実を淡々と記し、(事件)では尋問でのやりとりが中心なので、最後の(特別上申書)で倉田警部補が事実を少しずつ推理していく意識の流れがよりあざやかに、「招かれざる客」という文を記した女性の悲しみが強く伝わってくる。
トリックも、文も楽しめる至福のミステリ。だが女性は…という見方が、お若い読者にどう感じられるのか、読書会での感想が楽しみである。
読了日:2018年1月28日