実業家、富小路公子の生と死をめぐって関係者27人が一人称で語る証言で構成される。27人のそれぞれの語り口にも引きこまれるし、どんな証言が飛び出すのか展開も面白い。
その証言をどう心に描いていくのか、公子の言葉のどこまでが真実なのか、どこから嘘なのか解釈していくのは読者次第…という点では上質のミステリ。
また読み手がこれまで読んできたもの、出会ってきたもので人物像も変わっていく…そういう点では、読み手の人生の総量が問われる文学作品だと思う。
突き詰めて考えていくと疑問も少なからずある。でも公子が関わった犯罪が宝石、土地転がし、結婚詐欺という曖昧なものゆえ、そうした疑問もあまり気にならない。そうしたものが犯罪の対象になる時代を描ききったという点では、「恍惚の人」「複合汚染」に通じるものがあるだろう。
もっと有吉佐和子を読んでみたいと思いつつ、頁を閉じる。
読了日:2018年7月16日