チェスタトン「マンアライヴ」二部三章第334回

一瞬黙り込んでからイングルウッドは言った。「では最後に、次の手紙を証拠として出そう」

「私はルース・デイヴィスと申します。クロイドンにあるローレル荘で、六ヶ月にわたってI・スミス夫人の女中をしておりました。私がまいりましたときに、そのレディは二人の子供たちとだけで暮らしていらっしゃいました。未亡人ではございませんでしたが、ご主人はそこにはいらっしゃいませんでした。奥様はたっぷりお金をいただいた状態で残されたようで、ご主人様のことで思い悩むような気配はございませんでしたが、それでも直に戻ってくるだろうと思っていらしたようです。奥様の言葉によれば、旦那様には突拍子もないところがおありで、ちょっとした変化でもすぐにご機嫌がよくなったそうです。先週のある夕方、芝生のところで紅茶の用意をしていたのですけど、あやうくカップを落としてしまうところでした。長い熊手の先が生け垣から飛び込んでいて、跳躍競技の棒のように地面にささっているのですから。そして生け垣をこええて、棒に乗った猿のように現れたのは、体の大きな、身の毛のよだつような男で、髭も髪も伸び放題で、ロビンソン・クルーソーのようにその服はぼろぼろでした。思わず金切り声をあげてしまいましたが、奥様は椅子から立ち上がることもなさらないのです。ただ微笑んで、髭をそりたいわねえと仰いました。するとその男は落ち着き払って庭のテーブルにつき、紅茶をのみました。そのとき私は事情を呑み込んだのです。この男こそスミス氏に他ならないと。それ以来、この屋敷にいらっしゃいますが、あまり大した問題もおこされていません。それでも時々、頭に弱いところがある方ではなかろうかと思うことも度々あります。

ルース・ディヴィス

追伸 申し上げるのを忘れておりましたが、ご主人さまは庭をみわたしてから、仰いました。それはうるさいくらいに力強い声でした。「素敵な場所に住んでいるなあ」と。まるでその場所を初めて目にするようでしたよ。」

After a short silence Inglewood said: “And, finally, we desire to put in as evidence the following document:—

“This is to say that I am Ruth Davis, and have been housemaid to Mrs. I. Smith at `The Laurels’ in Croydon for the last six months. When I came the lady was alone, with two children; she was not a widow, but her husband was away. She was left with plenty of money and did not seem disturbed about him, though she often hoped he would be back soon. She said he was rather eccentric and a little change did him good. One evening last week I was bringing the tea-things out on to the lawn when I nearly dropped them. The end of a long rake was suddenly stuck over the hedge, and planted like a jumping-pole; and over the hedge, just like a monkey on a stick, came a huge, horrible man, all hairy and ragged like Robinson Crusoe. I screamed out, but my mistress didn’t even get out of her chair, but smiled and said he wanted shaving. Then he sat down quite calmly at the garden table and took a cup of tea, and then I realized that this must be Mr. Smith himself. He has stopped here ever since and does not really give much trouble, though I sometimes fancy he is a little weak in his head. “Ruth Davis.

“P.S.—I forgot to say that he looked round at the garden and said, very loud and strong: `Oh, what a lovely place you’ve got;’ just as if he’d never seen it before.”

 

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