丸山健二『千日の瑠璃 終結7』より八月十八日「私はアオバトだ」を読む
「山国のまほろ町で暮らしてはいても 夏場には必ず海水を飲まないと生きてゆけぬ」アオバトが語る。
そんなアオバトが見つめ語るのは、海辺の町から「干物をぎっしりと詰め込んだ箱を背負えるだけ背負って」行商する娘。
この行商の娘は、これまで幾度か登場してきた。
アオバトが向ける行商の娘への視線に、丸山先生の視線が重なる。
海の町でたくましく、ひたむきに生きる娘の姿が浮かんでくる。
そんな彼女には
確かに私を惹きつけて止まぬ何かが具わっており、
だからこそ
いつもそうやって気に止め
様子を窺ってしまうのだろうが、
しかし
なぜか見飽きるということがなかった。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』349ページ)
最後、まほろ町を後にする行商の娘の影にアオバトが見た光の輪。
この影の描写に娘の現実と憧れが描かれているような気がして心に残る。
これはおそらく私しか気づかないことで
彼女の恐ろしく長くて酷く寂しい影の頭の部分には
ほんの薄っすらと
虹色に限りなく近い
光の輪が見てとれたのだ。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結7』349ページ)