2018.11 隙間読書 「皆川博子の辺境薔薇館」

河出書房新社

皆川博子完全読本の帯コピーにふさわしい本。頁をめくるたびに読みたい本、心に残る言葉、そしてそれぞれの皆川博子愛に出会う。


短編「風」「砂嵐」「お七」「廃兵院の青い薔薇」「ひき潮」「美しき五月に」「水引草」を読み、家にあった文学全集に読むふける姿とそんな本好きの乙女の心に影を深くおとした戦争をしみじみ思う。


石井千湖氏によるロングインタビュー「皆川博子をつくったもの」

読書以外に耽溺していることはありますか?という問いにきっぱり一言「ありません」という答えがいいなあ。

「敗戦で世間の倫理道徳観が百八十度転換したことは、私にとって大きかった」との答えも心に残る。


皆川博子随筆「時代の歌」「楽屋の鏡」「無人島へ持っていく本『江戸語辞典』」「絵と私」「暗号の旅」「酩酊船」「幻想作家についての覚え書き」

無人島へ持って行きたい本として三好一光という人が、戯作、歌舞伎台本、川柳などから江戸俗語一万語を選んで五十音順に並べたという「江戸語事典」をあげているが、私も欲しい。そんな本をもって無人島へ行けたら素敵だと思うことしきり。


様々な分野で活躍されている39人が語る皆川氏の魅力。

新保氏が語る皆川博子の逸話は、泡坂妻夫の「11枚のトランプ」を買って家で読むのが待ちきれず、飛び込んだ喫茶店で、ページごとに切り開かないといけないフランス装のページをティースプーンで切り開いて読んだというもの。

東雅夫氏が語る思い出は、幻想文学編集室に皆川博子から送られてきた書籍に米倉斉加年デザインの便箋に淡いモーブのインクで書いた手紙が添えられていたというもの。

ティースプーンで本の頁を切り開く姿も、モーブのインクで手紙を記す姿も、同じ皆川博子なのだなあと興味深く読む。


東雅夫氏による「皆川博子を読み解くキーワード20」

20のキーワードにわけての東氏の解説に、こんな作品もあるのか、こんな読み方もできるのかと参考になる。とくに興味深いのが「詩歌」の項目。ここで紹介されている「蝶」「聖女の島」「ゆめこ縮緬」を読んでみたい。

それから「人形」のキーワードも気になる。「春指人形」「吉様いのち」「顔師・連太郎と五つの謎」「朱模様」「そこは、わたしの人形の」も読んでみたい。


最後に掲載されている日下三蔵氏の皆川博子作品リストは、タイトル・ジャンル / 短編連作集の収録作 / 発行年月日 / 出版社 / シリーズ・叢書名 / 判型 / カバー・帯の有無 / 解説者 / 注記 まで網羅している大変有難い労作である。このリストや様々な方のご意見を参考に皆川作品を読んでいたきたい。

2018/11/11読了

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