サキ「耐えがたきバシントン」Ⅵ章59回

「君は本当のところ、欲しがってなんかいない。だから僕がもらう」コーマスはしつこく言い張った。

「頭に血がのぼっている人となんか話し合いにならないわ」エレーヌがいった。

「君の運命の女性は的確に表現する術を心得ている」ヨールは笑い声をあげた。「でも、この論争は望ましいときに持ち越せるし、望ましい温度で話し合うこともできる。僕も外で論じるときがるけれど、君たちより不幸なことに、他のひとの論争を聞いていないといけないこともある。それもまるで病弱な蜥蜴を扱うように、熱心に治療するような雰囲気のなかでだ」

「でもバターつきパンの皿について、論争なんかしたことはないでしょう?」エレーヌはいった。

「主にバターつきのパンについてだ」ヨールはいった。「私たちが第一に取り組むべき仕事は、人々のバターつきパンについてだ。そのパンを稼いだり、つくりだしたりするわけだが、私たちがいそしんでいるのは、どのようにパンを切り分けるかということであったり、切り分けたパンの厚さであったり、あるいはどれ位のバターを、どれ位のパンに塗ることになるかということだ。それが言わば、法律だということになる。どのようにしてバターつきパンを消化すればいいのかということについて規則をつくればいいだけなら、本当に楽だろうなあ」

 

エレーヌが育ってきた環境では、議会とは病気や家族の再会など極めて真面目な事柄について扱うところとして考えられていた。だが7ヨールが、自分が関わる仕事について不真面目なことを話しても、彼女の気持ちが乱されることはなかった。彼が生き生きと効果的に論争をくりひろげるだけではなく、委員会では熱心に働いていることも、彼女は知っていた。彼が自分の働きを軽くみているにしても、軽くみなすような抜け道を誰にもあたえなかった。それに確かに、議会の雰囲気はこの暑い日の午後は心をそそられるようなものではなかった。

「いつ行くのですか?」エレーヌは共感をこめていった。

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