アーサー・モリスン「ロンドン・タウンへ」19章174回

 村にさしかかると、ベッシーは頬を紅潮させて懸命に歩き、重い足どりで体をゆらしながら歩き、全力で歩いているジョニーに追いつこうとした。ステープ・ヒルズがそびえる森のはずれが一番近かったので、ステープ・ヒルズにむかうことにした。通りの端まで来ると、ふたりの前にステープ・ヒルズがあらわれ、明るく、晴れやかな丘が見えてきたが、そこは深い、緑の森でおおわれていた。その麓にある池では、少年たちが釣りをしていた。そして埃っぽい通りには、池から小川が陽気に流れていた。

 「いきましょうよ、ジョニー」ベッシーが大声をだした。「丘をのぼりましょうよ」彼女が自分の歩みの速さに気がついたのは、大きな枝が陰をおとす場所にたどり着いてからのことだった。彼女の松葉杖は、木の葉が長い間つもって苔むした地面を、軽やかに動いていた。やがて彼女は立ちどまると声をあげて笑ったが、それは叫び声と言ってもよかった。「いい香りよ、ジョニー」彼女はさけんだ。「香りをかいでみて。天国のようじゃない?」

 斜面をのぼり、小さな湿地を横切ると、こんもりとした草むらでは、ヨーロッパノイズラが華やかさをかもしだしていた。ベッシーはあらゆるものに視線をそそぎ、木々、鳥、花を見つめた。それから、ふたりの侵入を叱りつけるカケスの騒々しい声に気がつくと、立ちどまっては、今度は離れたところにいるキツツキのさえずりに耳をかたむけた。ジョニーも散策を楽しんでいたが、その喜びには冷めたところがあった。まるで技術者が、忘れかけていた子ども時代の遊び場にかえり、幼い頃に慰みにしていた事柄について話しているかのようだった。

 

Through the village Bessy, flushed and eager, stumped and swung at a pace that kept Johnny walking his best. Staple Hill was the nearest corner of the forest, and for Staple Hill they made direct. Once past the street-end it rose before them, round and gay, deep and green in the wood that clothed it. Boys were fishing in the pond at its foot, and the stream ran merrily under the dusty road.

“Come, Johnny!” Bessy cried. “Straight over the hill!” Nor did she check her pace till the wide boughs shaded them, and her crutch went softly on the mossy earth among old leaves. Then she stood and laughed aloud, and was near crying. “Smell it, Johnny!” she cried, “smell it! Isn’t it heavenly?”

They went up the slope, across tiny glades, and between thick clumps of undergrowth gay with dog-roses, Bessy’s eyes and ears alert for everything, tree, bird, or flower; now spying out some noisy jay that upbraided their intrusion, now standing to hark for a distant woodpecker. Johnny enjoyed the walk too, but with a soberer delight; as became an engineer taking a day’s relaxation amid the scenes of childish play now half forgotten.

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