丸山健二「風死す」1を少し再読する
ー比喩は難しいけれど面白いー
「這い纏わる蔓草の奧」も不気味、「じっと潜む薬用の蛇」も不気味……と進んだところで、「発煙筒を使って燻し出す」と大きく展開するから、一瞬呆気にとられる。
そのあと「幸運を無造作につかもうとした」という行為が重なるから、さらに驚きつながらも「薬用の蛇」と「幸運」とは重なるものか……薬効という点で重なるのかも……と強烈に印象に残る。
「はっと我に返り」で「蛇」に重ねて読んでいた方も目が覚める気がする。
比喩ってかけ離れている方が面白いと思うけれど、それがこんな風に上手くハマる……のは難しいと思う。
這い纏わる蔓草の奥にじっと潜む薬用の蛇を 発煙筒を使って燻し出すように
幸運を無造作につかもうとした一時期が 懐かしく思い出されたところで
はっと我に返り その際に覚えた恥辱のために 心の沈黙を強いられ
(丸山健二「風死す」1巻363ページ)