1.1.9
ほかのひとの悲しみや喜びに共感することがあるかもしれない。でも、そうした感情をひきおこしている原因がわからなければ、その共感はとても不完全なものである。ふつう悲しみがあらわしているものは、受難者の苦痛だけである。だが、そのひとの境遇を知りたいという関心を抱かせるものである。また、受難者に共感する傾向があるが、ほんものの共感のように鋭敏に感じとるものではない。私たちが最初に問いかけることは、「あなたの身になにがおきたのですか」だ。この問いに答えてもらうまで不安になる。それは相手の不運について漠然としているからである。あるいはどうなるのか推察してみることで、自分自身を拷問にかけることになるからである。けれど悲しみや喜びの原因がわからなければ、私たちの仲間としての意識はたいしたものではない。
(さりはま訳)
これまでの訳は、上のバーのアダム・スミス 「道徳感情論」の部屋、からどうぞ